保育士の待遇をより良くするため、処遇改善手当があります。
「あれ?私は手当をもらってないかも!?」
「どの手当が対象か分からない!」
「もらっていない場合はどこに相談したらいい?」
と疑問を抱いた経験がある方もいるでしょう。
本記事では、まずは一目で処遇改善手当を確認できる表を掲載しました。そして、本来もらえるはずの手当がもらえなかった場合の相談先も複数紹介します。
ご自身の手当額に疑問がある方は必見の内容です!ぜひ最後までご覧ください。
保育士の処遇改善手当とは?
処遇改善手当は、保育を提供する人の確保、保育の質の向上、質の高い保育を安定的に提供する目的でスタートしました。
手当はI、II、IIIから構成されています。以下で簡単にお伝えします。
- 処遇改善手当I…
保育士の勤務年数によって変動する手当 - 処遇改善手当II…
個人の役職により加算される手当 - 処遇改善手当III…
2022年から始まった追加手当
手当が開始されたことで少しずつ給与額が増え、制度開始前と令和元年の年収額を比較すると約50万円増加しました。
給与額が大幅に増えた背景には、以下の3点があります。
- 保育士の月給が他の業種と比べて低い傾向にあること
- 慢性的な人手不足
- 命を預かる大きな責任に給与額が見合わないこと
参照:保育士の平均賃金
参照:処遇改善等加算
【早見表】保育士の処遇改善手当、どれがもらえる?どれはもらえない?
手当はI、II、IIIとあり、それぞれ条件があります。
勤務先の園の形態、雇用形態、役職の有無によって、受け取り可能な手当と不可能な手当があります。
保育士さんの状況ごとにどの手当が該当するかまとめました。
それぞれ解説しているので、ご自身の当てはまる欄を確認してみてください。
条件 | 処遇改善手当I | 処遇改善手当II | 処遇改善手当III | |
公立保育園で働く保育士 | 認可保育園 | ◯ | ◯ | ◯ |
私立保育園で働く保育士 | ◯ | ◯ | ◯ | |
公立保育園で働く新卒保育士 | ◯ | × | ◯ | |
私立保育園で働く新卒保育士 | ◯ | × | ◯ | |
主任保育士 | ◯ | × | ◯ | |
職務分野別リーダー・専門リーダー・副主任保育士 | ◯ | ◯ | ◯ | |
園長 | ◯ | × | × | |
産休中・育休中の保育士 | ◯ | ◯ | ◯ | |
パート・派遣・非正規職員 | ・認可保育園 ・1日6時間以上 or 月20日勤務 | ◯ | × | ◯ |
認可外保育園で働く保育士 | × | × | × | |
児童発達支援事業所・放課後等デイサービスで働く保育士 | × | × | × |
まず、前提条件として、手当を受け取るには、勤務先が認可保育園であることが必須です。
従って、認可外保育園や保育園以外の施設で働いている場合、たとえ保育士資格を活かした勤務でも、手当は適応不可となります。
ちなみに正社員保育士だけでなく、条件を満たすとパート・派遣・非正規職員も手当が受け取れるので要チェックです。
ただし、同じ保育園や同系列の園の正社員保育士でも、役職によっては受け取れる手当金が異なりますので、条件や金額について詳しく解説します。
公立保育園で働く保育士
■必ずもらえる手当
- 処遇改善手当I
- 処遇改善手当III
■所定の役職についている場合
- 処遇改善手当II
公立保育園は認可園です。従って、手当の受け取りが可能です。
手当Iで1ヶ月あたり12,000円〜38,000円、手当IIIで1ヶ月あたり9,000円を受け取れます。
また、特定の役職に就いている場合は、上記の2つの手当にプラスして1ヶ月あたり5,000円〜40,000円の支給があります。
私立保育園で働く保育士
■必ずもらえる手当
- 処遇改善手当I
- 処遇改善手当III
■所定の役職についている場合さらにもらえる手当
- 処遇改善手当II
私立の保育園には、認可園と認可外の園があります。
認可園で勤務の場合は、公立園の保育士と同額の手当金を受け取り可能です。
手当Iで1ヶ月あたり12,000円〜38,000円、手当IIIで1ヶ月あたり9,000円が支給されます。
また、特定の役職がある場合はさらに1ヶ月あたり5,000円〜40,000円の受け取りも可能です。
残念ながら、認可外の園で勤務している場合は手当を受け取れません。
公立保育園で働く新卒(1年目)保育士
■もらえる手当
- 処遇改善手当I
- 処遇改善手当III
■もらえない手当
- 処遇改善手当II
新卒保育士であっても認可保育園で勤務している場合は、手当の受け取り対象になります。
もらえる金額は、新卒でも他の正規保育士と同額です。
手当Iの金額は1ヶ月あたり12,000円〜38,000円で、手当IIIでは1ヶ月あたり9,000円受け取れます。
新卒でも手当を受け取れる理由は、職員全体がどれだけ継続して勤務しているかによって金額が決定するからです。
ただし、手当IIは対象外となります。なぜなら、3年以上の保育経験、研修の修了や特定の役職に就くなどの条件があるためです。
私立保育園で働く新卒(1年目)保育士
■もらえる手当
- 処遇改善手当I
- 処遇改善手当III
■もらえない手当
- 処遇改善手当II
私立保育園で勤務の新卒保育士は、認可園勤務であれば手当の受け取り対象です。
受け取れる金額は、公立園の新卒保育士と同額です。
手当Iの金額は1ヶ月あたり12,000円〜38,000円で、手当IIIでは1ヶ月あたり9,000円受け取れます。
新卒でも手当が入る理由は、手当Iの金額は個人の勤続年数でなく、園全体の勤続年数によって金額が決定するからです。
仮に、手当Iが満額支給され、手当IIIも支給されると、合計で47,000円ほど月給にプラスされます。
主任保育士
■もらえる手当
- 処遇改善手当I
- 処遇改善手当III
■もらえない手当
- 処遇改善手当II
主任保育士も役職に就いていない保育士と同様に手当Iと手当IIIを受け取れます。
金額は、手当Iで1ヶ月あたり12,000円〜38,000円、手当IIIで1ヶ月あたり9,000円です。
よく「主任保育士も手当IIを受け取れる」と勘違いされることがありますが、手当IIは特定の役職のある保育士が対象で、主任保育士は含まれていません。
なぜなら、主任保育士はほとんどの場合、主任手当をもらっているからです。主任手当は、園によりますが、およそ月額30,000円〜50,000円です。
では、手当の対象となる特定の役職とは何か、次の段落で紹介します。
職務分野別リーダー・専門リーダー・副主任保育士
■もらえる手当
- 処遇改善手当I
- 処遇改善手当II
- 処遇改善手当III
職務分野別リーダー・専門リーダー・副主任保育士は処遇改善手当の全てが対象になります。
なぜなら、上記の特定の役職のみ手当IIが支給されるからです。
手当IIで具体的にもらえる金額は、1ヶ月あたり5,000円~40,000円です。
特定の役職に就くためには下記の条件を満たす必要があります。
- 保育士経験が3年~7年程度あること
- 所定の研修を修了していること
- 園からの発令を受けること
3つの手当全て満額で支給されると、合計で1ヶ月あたり87,000円の加算となります。
ただし、手当金は国から園に支払われ、分配する割合は園によるので必ず全額もらえるわけではありません。
園長
■もらえる手当
- 処遇改善手当I
- 処遇改善手当III
■もらえない手当
- 処遇改善手当II
認可園の園長の場合、手当Iと手当IIIが対象になります。
金額は、手当Iで1ヶ月あたり12,000円〜38,000円、手当IIIで1ヶ月あたり9,000円支給されます。
手当IIは、特定の役職の保育士への手当で、園長は含まれません。
園長は保育園のトップの役職であるため、処遇改善手当とは別の手当が加算されていることもあります。
なお、主任保育士と同様に手当の額は園によります。
産休中・育休中の保育士
■もらえる手当
なし
産休中、育休中の保育士は、休業扱いとなります。月の給与が発生しないため、基本的に手当をもらえません。
理由は、手当金は月給に加算されるからです。ただし、処遇改善手当以外の出産手当金や育児休業給付金はもらえます。
パート・派遣・非正規職員
■もらえる手当
- 処遇改善手当I
- 処遇改善手当III
■もらえない手当
- 処遇改善手当II
パートや派遣、非正規保育士でも条件を満たすと手当の対象になります。
基準は、1日6時間以上の勤務、もしくは月に20日以上の勤務です。手当金の額は正社員保育士と変わりません。
手当Iで月額12,000円〜38,000円、手当IIIで月額9,000円をもらえます。
手当IIは、保育士としての経験年数は満たしても、所定の研修の修了や特定の役職に就くことが条件となるため、手当の対象外です。
認可外保育園で働く保育士
認可外保育園で働く保育士は処遇改善手当を受け取れません。理由は、認可園で働く保育士のみが対象だからです。
代表的な認可外保育園は次の通りです。
- 民間の保育園
- 一時保育室
- 病児・病後児保育室
- 病院に併設されている独自の保育室
- 認証保育所(地方単独保育事業の施設)
児童発達支援事業所・放課後等デイサービスで働く保育士
処遇改善手当は認可保育園で働く保育士をサポートするための手当です。
従って、認可園でない児童発達支援事業所や放課後等デイサービスなどで働く場合は、処遇改善手当をもらえません。
もらえるはずなのにもらえてない!?
「対象のはずなのに、給与明細だと受け取ってないんだけど…」
もし上記のお悩みがある場合は、処遇改善手当がもらえていない理由があるかもしれません。
考えられる理由を3つ挙げました。
- 園が申請を行っていない
- 園長が意図的に保育士に分配していない
- 園の経営不振
処遇改善手当の制度の特性として、園が国に手当金を申請する必要があります。
まず最初に、園が手当の申請を国に出していないため手当金が入らず、保育士の手元に行きわたっていない可能性があります。
次に考えられる理由として、園長が意図的に保育士に配分していないケースです。
手当の流れは、園が手当金の申請をして手当金が入り、園が振り分けたものが保育士に入ってきます。
具体的に誰にいくら分配するかは園によって決めるため、意図的に分配金を調整しているケースもあるようです。
最後に考えられる理由は、園の経営困難によって保育士の手に渡るはずの手当金を、園側が独自で使ってしまっていることです。
現在は、園が手当をどのように分配したかを報告する義務があります。
よって、今後は発生しにくいとは思いますが、実際に以前は受け取れていた手当金が減ってしまった人も過去にいたようです。
処遇改善手当Iについて詳しく解説
処遇改善手当Iとは、認可保育園で勤務する職員全員の平均勤続年数によって、国から手当金が入る制度です。
長く働いている保育士が多い職場ほど加算割合が大きくなります。
非常勤保育士でも、1日に6時間以上の勤務か、月に20日以上の勤務があれば対象です。
具体的には、1ヶ月あたり12,000円〜38,000円が給与に上乗せされます。
基礎分 | 職員1人当たりの平均勤続年数によって、2~12%の加算率が決まります。 |
賃金改善要件分 | 賃金改善計画・実績報告を条件として、賃金改善にあてることが要件です。 |
キャリアパス要件分 | 役職や職務内容に合った賃金の設定、保育士の質の向上のための計画、研修の実施、研修機会の確保等が要件であり、満たさない場合は2%減となります。 |
気を付けたい点は、手当金は国から園にまとめて振り込まれ、保育士に直接支払われません。
入ってきた手当金の配分は、園が決めます。例えば、園によっては勤続年数が短い若い職員に手厚く配分したり、長く働いている職員に多く配分したりと差が生まれることもあります。
また、園には手当金をどのように職員に配分したか報告する義務があります。
処遇改善手当IIについて詳しく解説
処遇改善手当IIは、保育士の質の向上とキャリアアップのためにできた新しい役職に対する手当金です。
今まで保育士には、園長と主任などの数少ない役職しかなく、キャリアアップの道筋がほとんどありませんでした。
本手当は、保育士のキャリアアップする機会を増やし、昇給のチャンスを作るために導入されました。
特定の役職に就くには、一定の保育士経験と所定の研修の修了が必要です。
具体的な役職と加算額は次の表を参考にしてください。
職務分野別リーダー | 専門リーダー | 副主任保育士 | |
---|---|---|---|
加算額 | 月5,000円アップ | 月最大40,000円アップ | 月最大40,000円アップ |
人数 | 園全体で1/5人 | 園全体で1/3人 | 園全体で1/3人 |
経験年数 | 約3年以上 | 約7年以上 | 約7年以上 |
研修 | 担当分野(15時間)以上 | 4分野以上(計60時間) | マネジメント+3つ以上の研修を修了 |
ただし、上記の役職は、すべての保育士が就けるわけではありません。なぜなら、園に配置できる人数が決まっているからです。
具体的に、職務分野別リーダーは、園全体の1/5人までとなっています。
専門リーダーと副主任保育士は、園全体の1/3人までと決められています。
(園長と主任保育士を除いて計算します)
手当がもらえる役職に就くためには、都道府県が実施している「キャリアアップ研修」に参加し、所定の研修を修了する必要があります。
ただし、個人の役職によって支給される手当ですが、保育士個人に直接振り込まれず、園にまとめて入金されます。
気を付けたい点は、手当金は、必ず全額もらえるわけではないことです。
理由は、園の判断で1/2を園長と主任保育士以外の職員へ分けることも可能だからです。
処遇改善手当IIIについて詳しく解説
処遇改善手当IIIとは、保育士を対象とした賃金改善のための手当で、1ヶ月あたり9,000円が加算されます。
「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」に基づいて令和4年2月から実施されています。
園が国に申請をすることで手当金をもらえますが、園の判断によって手当金の配分を決めていることから必ず全額をもらえるわけではありません。
各自治体でも保育士の処遇改善の取り組みを実施
処遇改善加算は国から支払われる手当金ですが、地方自治体によっては独自に保育士へ手当を支給しているところがあります。
転職や就職を考える際に処遇改善を行っている自治体を選択することで、給与額アップも見込めます。
下記で代表的な自治体の取り組みの一部を紹介します。
東京都千代田区
補助額…年間240,000円(最大2,400,000円)
東京都千代田区では、奨学金を利用して保育士資格を取得した区内の保育施設で勤務する保育士に対して、奨学金返済費用の一部を補助しています。
基本的に返済している額が補助され、年間最大240,000円の補助が受けられます。
補助期間は最大10年間で、最大2,400,000円です。
初回に申請した保育園で継続しての勤務が条件となりますので、退職して再就職しても再度申請はできません。
参照:千代田区ホームページ – 保育士奨学金等返済支援事業補助金
埼玉県さいたま市
補助額…年間180,000円(最大900,000円)、年間193,500円(さいたま市独自の制度)
埼玉県さいたま市の取り組み2点を紹介します。
1つ目は、奨学金の貸与によって保育士資格を得た市内の私立保育園で働く保育士に向けて、年間上限180,000円を補助しています。
最長5年間、補助を受けることが可能です。
2つ目は、さいたま市独自で常勤職員1人あたりに年間193,500円を手当として支給しています。
千葉県松戸市
補助額…月額45,000円(松戸手当)、月額15,000円(奨学金返済支援制度)
千葉県松戸市での取り組み2点を紹介します。
1つ目は、松戸手当とも呼ばれている市独自の保育士への給与の上乗せです。
支給額は勤続年数に応じて決まり、1〜11年目までは1ヶ月あたり45,000円、12年目以降は勤続年数によって1ヶ月あたり49,800〜78,000円まで支給されます。
2つ目は、奨学金を利用して保育士資格を取得した市内の保育園で働く保育士に対して、1ヶ月あたり15,000円の補助をしています。
補助上限金額は900,000円です。
千葉県船橋市
補助額…年間602,340円(ふなばし手当)
千葉県船橋市では、市内の保育施設で働く保育士に、1ヶ月あたり43,220円のふなばし手当と呼ばれる給与の上乗せがあります。
月額の給与の上乗せのみならず、賞与2回分にも上乗せがあり、さらに勤続年数を問わず支給されることが特徴です。
また、手当の対象は正社員保育士だけでなく、1日6時間以上かつ月20日以上働いているパート保育士も受け取りが可能です。
北海道札幌市
補助額…100,000円(一時給付金)
北海道札幌市では、市内の認可保育園に勤務している保育士で、採用から3、6、9年間勤務を続けた人に一時金100,000円を支給しています。
3年間は勤続3年以上4年未満、6年間は勤続6年以上7年未満、9年間は勤続9年以上10年未満として考えます。
同一の保育園で勤務していることが条件です。ただし、系列施設の人事異動は同一の保育園とします。
処遇改善手当がもらえない人はどこに相談すればいい!?
処遇改善手当の対象者や制度についてお伝えしました。
本来ならもらえるはずの手当がもらえていないケース、または手当の対象外で給与が低く暗い気持ちになっている保育士さんもいるかもしれません。
下記に保育士さんが利用できる相談場所を記載しますので、勇気を出してぜひ相談してみてください。
福祉保育労では、無料で労働相談を受け付けています。
平日は9:30~18:00ごろまで電話での相談、FAXやメールでも相談に対応してくれますので、忙しくて平日の日中に時間が取れない保育士さんでも相談できますね。
総合労働相談コーナーは、各都道府県の労働局や労働基準監督署などに設置されており、無料で電話での相談や面談も可能です。
相談の内容によっては、助言や指導を受けることもできます。
法テラスでは、法律の専門家が無料で相談に対応してくれます。
電話での相談は平日は9:00〜21:00と対応時間が長く、土曜日も9:00〜17:00まで対応してくれるので忙しくても電話相談をするタイミングが取れそうですね。
また、メールでの相談も受け付けています。
給料アップには転職も視野に
保育士の手元に入るはずの処遇改善手当。
ですが、保育士個人に直接振り込まれず園にまとめて入金される特徴と、園が振り分け先と金額を決めるために、園によってもらえる手当の額には差があります。
現時点の給与額に悩み、転職を視野に入れている保育士さんは、手当金をしっかり保育士に渡しているかどうか、役職に就くための研修を受ける機会があるかなどの点も踏まえてご自身に合った保育園を探してください。
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