赤ちゃんの唇を触るとその指を吸う、掌をつついたら握り返すといった行動は原始反射と呼ばれるものです。
「こちらの行動に反応してくれている!」と嬉しくなりますが、意思とは関係なく自動的に起こる“反射”で、生まれつき備わっているものです。
また、子どもの成長を見るうえで大切な役割をもっています。
原始反射にはどのような種類があってどういった対応が必要なのか等、保育をする上で知っておきたいことをまとめました。
- 原始反射は生まれつき備わっている反射で、ある時期を境に消失していくものである。
- 原始反射には様々な種類があり、正常に現れなかった場合はそれぞれに課題が隠されている可能性がある。
- 原始反射の異常は発達障害と関係している可能性がある。
- 原始反射が現れない、または統合されない場合は、療育を受けることが効果的である。
- 保育士として、理解を深めて対応し、保護者と連携することが必要。

原始反射の様子を愛おしく感じる保育士さんも多いのではないでしょうか。
そんな赤ちゃんの行動には大切な情報が隠れています。
かわいさの中に隠れている大切なサインをご紹介します!


あん 元保育士ライター
保育士歴11年、現在は2児の母です。公・私立園それぞれで正規・非正規保育士として働いた経験を活かし、役立つ情報をわかりやすくお伝えします。
原始反射とは?
原始反射とは赤ちゃんに元々備わっている反射のことで、赤ちゃんが母親の胎内にいるときから出現し、出生後すぐから見られます。
反射とは、特定の刺激に対して本人の意思とは関係なく反応が起こることです。
赤ちゃんは、お腹の中では羊水に守られ、必要な栄養はへその緒を通して得ることが出来ますが、産道を通って生まれ、その後はお腹の外の環境で生きていく必要があります。
ですが、生まれたばかりの赤ちゃんにはまだ生きるための知識は備わっていません。
そこで、意識とは関係なく身体が動く「反射」が役に立つのです。
原始反射は中枢神経と密接に関係しているため、その様子を観察することで赤ちゃんの発達状態を知る手がかりになり、健診でも指標とされます。
原始反射の種類一覧
原始反射には様々な種類があります。
原始反射について、それぞれの特徴や出現する時期、消失する時期などを詳しく見ていきましょう。
また原始反射の様子から結びつく、関連する可能性のある症状についてもご紹介するので参考にしてください。
それぞれについて詳しく知ることで、より多くの視点で子どもを見ることにつながります。
モロー反射
身体が傾いたり大きな音がしたりした時に両手をパッと開き、その後に抱き着くような動作をするのがモロー反射です。
これは、昔人間がサルだった頃に、お母さんや木の枝から落ちそうになった時にとっさにしがみつこうとした習性の名残とも言われています。
少しの物音や風が吹くといったちょっとしたことでも起こりがちな反射です。
モロー反射が激しいときは、タオルやおくるみに包んであげると落ち着くこともあります。
出現時期 消失時期 | 生後すぐに出現 4か月頃に消失 |
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関連する可能性のある症状 | 腕神経叢麻痺(わんしんけいそうまひ) 核黄疸 脳性麻痺 鎖骨骨折 |
歩行反射
赤ちゃんの脇の下を支えて足の裏を床につけると足を交互に動かし、まるで歩いているような動きをします。
これは歩行反射という原始反射で、原始歩行とも呼ばれています。
生まれつき歩くための準備が体に備わっているためにみられる反射だと言われています。
歩く動きはしますが、筋肉や骨が未熟であるため実際には歩けません。
赤ちゃんの成長に問題が無く、健康に育っているかどうかを判断する目安のひとつとして見られることもあります。
出現時期 消失時期 | 生まれてすぐに出現 2か月頃から次第に消失 |
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関連する可能性のある症状 | 発達の遅れ 脳や神経にうまく伝達ができていない |
哺乳反射
哺乳反射とは、ミルクやおっぱいを飲むために必要な反射で、探索反射、捕捉反射、吸てつ反射の3つからなります。
おっぱいを探す→乳首をくわえる→おっぱいを吸い出すというプロセスを経て母乳を摂取しているのです。
哺乳反射が消失し始めると、次第に反射ではなく自分の意思でおっぱいを飲むようになります。
生まれてすぐ、まだ何もわからない状態の赤ちゃんでもちゃんと栄養を取れるよう、哺乳をまずは反射で行うのですね。
出現時期 消失時期 | 生まれてすぐに出現 4~5か月頃から消失しはじめる |
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関連する可能性のある症状 | 離乳食で使用するスプーンを受け付けない |
吸てつ反射
前項で説明した吸てつ反射について、さらに詳しくご紹介します。
赤ちゃんの口の辺りに何かが触れると吸い付く行動を言い、おっぱいに触れた時に母乳が飲めるように備わっている原始反射です。
口に入ってきた乳首を舌と唇を使って力強く吸引し、母乳を摂取することが出来るのです。
口の周りに触れたものがおっぱいではなくても、指でつんつんとつついても吸い付く様子が見られます。
吸てつ反射が減少したころに離乳食の準備を始めると、栄養の移行をスムーズにできるとも言われています。
出現時期 消失時期 | 生まれてすぐに出現 3~4か月後に消失する |
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関連する可能性のある症状 | 吸てつ反射の減少により哺乳量が減少することがある |
緊張性頸反射
対称性緊張性頸反射と非対称性緊張性頸反射の2つを合わせて緊張性頸反射と呼びます。
①対称性緊張性頸反射
うつ伏せの時に顎を上げると腕が伸びて足が曲がり、顎を下げると腕が曲がって足が伸びるという反射です。
ハイハイのときに上を向いた姿勢を保つための反射です。
②非対称性緊張性頸反射
赤ちゃんの顔を左右いずれかに向けると、顔を向けた方の手足が伸びて反対側の手足が内側に曲がる反射で、産道を通る手助けとなる反射と言われています。
出現時期 消失時期 | 生まれてすぐに出現 3~4か月頃に消失する |
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関連する可能性のある症状 | 姿勢の崩れや運動の困難さ |
緊張性迷路反射
頭を前に曲げた時に胎児のように身体全体が丸まり、逆に頭を後ろに反らせた時に手足や背骨などが伸ばされて身体全体が反り返るような姿勢になる動きを、緊張性迷路反射と言います。
産道を通って生まれてくる際に必要な反射であると共に、身体の曲げ伸ばしによって筋肉のバランスを良くしたり、正常な緊張状態を全身に行き渡らせたりする働きをします。
また、平行感覚と姿勢の維持に影響を与え、正しいハイハイの姿勢をとる為に重要な反射です。
出現時期 消失時期 | 生まれてすぐに出現 3か月~1年以内に消失 |
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関連する可能性のある症状 | 姿勢やバランスの悪さ 筋肉の緊張が強すぎたり弱すぎたりする |
手掌把握反射
手掌把握反射は、掌に物が触れると手をぎゅっと握る反射です。
人間が昔サルだった頃は、お母さんの体から落ちないようにする必要がありました。
モロー反射と同様に、しっかりつかまっていられるように備わった反射です。
また、赤ちゃんが本能的に危険や恐怖を回避するための動作とも言われています。
現在は必要無いようにも思えますが、運動機能を発達させたり筋肉が発達したりと、赤ちゃんにとって必要なものです。
足底把握反射と呼ばれる、足の把握反射もあります。
出現時期 消失時期 | 生まれてすぐに出現 4~5か月後に消失 |
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関連する可能性のある症状 | 巧緻性に影響が出る 感覚の過敏さや鈍感さがある |
バビンスキー反射(足底反射)
足の裏の外側をかかとから足先の方にこすると足の親指は甲側へ、その他の指は扇のように広がる反射をバビンスキー反射と言います。
フランス人医師のジョセフ・バビンスキーが発見した反射というのが、名前の由来となっています。
バビンスキー反射は、他の原始反射とは異なり、特に役割を持っていないとされています。
またバビンスキー反射は、他の反射と同じ様に赤ちゃんの中枢神経系が発達していくと、自然になくなります。
出現時期 消失時期 | 生まれてすぐに出現 1~2歳ころに消失 |
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関連する可能性のある症状 | 足の筋肉や歩き方の異常 麻痺や感覚の異常 |
側湾反射(ガラント反射)
ガラント反射はギャラン反射とも呼ばれ、赤ちゃんをうつぶせに寝かせて背骨の横を平行にゆっくりなぞると、なぞった側にお尻が上がる反射です。
例えば背骨の左側をなぞると、「J」のような形になります。
産道をスムーズに通るための反射とも言われています。
ガラント反射がいつまでも残っていると夜尿に繋がることがあります。
おねしょがいつまでも続く場合は、ガラント反射が残っている可能性が疑われます。
出現時期 消失時期 | 生まれてすぐ出現 3~9か月頃までに消失 |
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関連する可能性のある症状 | 片側の筋肉が緊張 じっと座るのが苦手 夜尿 |
原始反射への保育士の対応
原始反射は、子どもの成長について知るためのひとつの指標となります。
子どもの成長を見守りサポートし、保護者を支援する立場である保育士には、原始反射についても適切な対応をすることが求められます。
原始反射において保育士に求められる対応にはどのようなものがあるのでしょうか。
それぞれ解説していきますので参考にしてください。
原始反射に関する知識を深める
原始反射は発達の指標となるものなので、本来いつ頃出現して消失するのか、どういった姿が望ましいのかなどを知っておく必要があります。
本来の姿を知っておくことで、気になる子どもの姿に気付いて対処できます。
知識を深めるには、個人的に勉強する以外に、園内研修などで勉強会を開くと良いですね。
保育の現場では1人で子どもを見るわけではありません。
勉強会を開くことで、園全体が原始反射についての基礎知識を得られます。
園児の様子をよく観察しておく
原始反射は、赤ちゃんが正常に発達しているかを判断する重要なサインです。
反射が適切な時期に出て消失しているか、反射の強さは適切か等といったポイントを意識して観察することが大切です。
原始反射の出方が強く残る、消えない、極端に弱いなどといった場合は神経系の異常が疑われることがあります。
園児の様子をよく観察することで異常の早期発見につながり、その子どもに合わせた適切な関わり方を考えることができます。
保護者との情報共有
子どもの気になる姿があるときには、その保護者と情報を共有して連携を取ることが重要です。
伝える際は、発達には個人差があることを伝え、過度に不安にさせないように配慮したり、専門用語はなるべく使わずにかみ砕いて説明したりすることで理解してもらいやすくなります。
家庭ですると良い関わり方を伝え、前向きな言葉がけをすることが大切です。
必要に応じて専門機関への相談を提案する必要がありますが、保護者の気持ちに寄り添い、配慮することが必要です。
原始反射で注意するポイントは?
原始反射が「現れない」または「消失しない」場合の対応をご紹介します。
① 他の発達の様子も確認する
原始反射が出ない場合、筋力や感覚などの発達の遅れも考えられますので、注意深く観察することが必要です。
② 適度な刺激を与えてみる
原始反射が弱い場合は、適度な刺激を与えてみることで反応が見られることがあります。
① 日常の動きをサポートする
日常生活に影響を与えることがあるので状況に合わせてサポートすることが必要です。
② 感覚遊びや運動を取り入れる
残っている反射をスムーズに消失させるために運動や感覚遊びを取り入れることが有効です。
原始反射は出るべき時に出て消えるべき時に消えるのが大切です。
あるべき原始反射が無かったり逆に消えなかったりするときには、脳や脊髄に何らかの異常がある可能性がありますので、まずは医師に相談しましょう。
また、原始反射が残っていると、自分自身をコントロールすることが困難になり、普段の生活に支障をきたすことがあります。
原始反射の統合(消失)には、統合遊びや運動療育を通して支援することができ、保育園や家庭で実践できることもあります。
園で実践したり、家庭でもできるように保護者と連携を取ったりすると良いですね。
原始反射と発達障害の関連性
原始反射は、出現と消失の時期が大切だとお伝えしましたが、赤ちゃんの発達には個人差があるので目安の時期が過ぎていてもあまり神経質になる必要はありません。
しかし、中には発達障害と関係がある場合もあります。
原始反射と発達障害の関係を知ることで、子どもに対する理解をより深めていきましょう。
原始反射に異常があれば発達障害の疑いも
原始反射の残存=発達障害ではありませが、発達障害がある子どもは原始反射を残したまま成長している事が多いと言われています。
例えばモロー反射が残っていると、赤ちゃんが音や光に敏感に反応し、ちょっとした刺激が気になって集中できなかったり、かんしゃくを起こしたりする傾向があります。
その結果、本人の意思とは無関係に、その場にそぐわない行動につながることもあるのです。
原始反射は発達状態のバロメーターになるものですので、よく観察しましょう。
発達障害が疑われるとき、保育士にできることは?
原始反射が統合されずに長期間にわたって現れることで発達障害が疑われるケースがあり、その場合は適切に療育につなげることが重要です。
望ましい療育を受けることで原始反射が統合し、苦手を克服することが期待できます。
療育を受ける際は、基本的に保護者が主体となって通所することになりますので、保護者の意識が重要です。
そのためには、子どもの様子をよく観察して保護者に説明し、理解を深めてもらうように心がけましょう。
原始反射の統合には運動が重要!簡単にできるエクササイズを紹介
原始反射が残ってしまうと、様々な困り感を持っていることが多いです。
ここでは、保育園や家でも気軽に取り組めるエクササイズをご紹介します。
普段の小さな積み重ねが子どもの成長に繋がります。
「頑張ること」ではなく、楽しい遊びとして保育の中に取り入れると、子どもの意欲も引き出すことができますね。
原始反射が統合されないとどうなる?
原始反射が統合されないと、姿勢やバランスのとりにくさや細かい動きが苦手である等、運動面に影響を及ぼします。
また学習や集中力へも影響し、座ったままでいることや書くことや読むことが難しく、集中力が続かない、または多動のような行動が出ることもあります。
また、感覚の過敏があったり、不安やストレスを感じやすくなったりといったことが起こり、結果的に対人関係を円滑にすることが困難になることもあります。
感覚統合に有効なエクササイズや運動を紹介
原始反射の統合には療育が有効ですが、他にも簡単にできるエクササイズや運動があります。
保育園や家庭で日常的に行えて、原始反射の統合へのアプローチを更に期待できます。
遊びとして楽しめるものばかりですので、他の子どもも一緒に取り組み、楽しい雰囲気の中で子どもの意欲を引き出して取り組めると良いですね。
抱っこ・腹ばいの時間を増やす
抱っこや腹ばいの時間を増やすと、重力に対する感覚を高めることができ、モロー反射の統合を助けることができます。
ただ単に行うだけでなく、低いトンネルをくぐって遊んだり腹ばいで競走したりするなど遊びの中に組み込むと良いですね。
また抱っこは、保育士がしても良いですが、保護者にしてもらうことでより良い心理的な効果も期待できますね。
クロールやハイハイの動きを取り入れる
クロールやハイハイなどの動きは、脳の異なる部分の協調を促すことで原始反射の統合に役立ちます。
実際にプールでクロールしなくても、泳ぐ真似を遊びの中に取り入れるだけでもよいでしょう。
ハイハイの場合はトンネルくぐりや動物ごっこレース、マットなどでコースを作ったハイハイ探検遊びなど、楽しみながら運動に取り組めます。
砂遊びや泥遊び
砂や泥に触れたりその上を歩いたりすることで、触覚が刺激されて身体感覚の成長が促されます。
また、草や粘土なども同様に触覚を刺激して原始反射の統合に役立ちます。
砂場で山を作ったり泥団子を作ったりすることが、原始反射の統合に役立つのですね。
暖かい時期には泥んこになって、体中の触覚を働かせて楽しむこともできますね。
バランスボールやバランスボードを使ったエクササイズ
バランスボールやバランスボードを使ったエクササイズは、感覚統合とバランス能力を同時に鍛えることができます。
ボールの上で体を伸ばしたり丸まったりといった動き、大人が支えながら上ったり跳ねたりする運動、座らせてバランスを取るような運動などをしてエクササイズを行います。
行うときは危険が無いように環境を整えましょう。
トランポリン運動
トランポリンを使用することで、跳ねているときに空間における自分の体の位置を認識する感覚やバランス感覚が刺激され、原始反射の統合につながります。
トランポリンは子どもが大好きな遊びですね。
遊ぶ際は子ども同士がぶつからないように一人ずつ跳んだり、マットを周りに敷いたりして安全対策に留意しましょう。


【まとめ】原始反射について知識を深めて適切な対応をしよう!
原始反射は新生児の時に現れる反射ですが、原始反射を知ることは困り感を持っている子どもを理解する上でとても重要なものです。
発達障害とされている子どもの姿には原始反射の残存が潜んでいるかもしれないと考えると、子どもに対するアプローチの幅が広がりますね。
知識を深めて、それぞれの子どもにとって適切な対応をしましょう。
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