統合保育とは?保育現場での事例やメリットデメリット、注意点を解説

統合保育

統合保育とは、障害を持つ子どもとそうでない子どもを同じ環境下で保育することです。

同じ空間で子ども同士が関わり合うので、互いに社会性や思いやりの心が育めます。

「統合保育は障害児にどのようなメリットがあるの?」「統合保育をする上で何に注意するべき?」など、疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。

本記事では統合保育とは何か、保育現場での事例やメリットデメリットなどを詳しくご紹介します。

統合保育の進め方にお困りの方は、ぜひ最後までご覧ください。

この記事をまとめると
  • 統合保育とは、障害を持つ子どもと健常児を同じ空間で保育すること
  • 障害児は社会性を身につける、健常児は思いやりの心を育めるなど両者にメリットがある
  • 統合保育では、障害に関する知識やチーム間の情報共有が求められる
  • 保育所以外にも、児童発達センターや放課後等デイサービスなどで統合保育の経験が活かせる
【元保育士】ゆぴライター

私は統合保育を行なっている子ども園で働き、加配児を担当した経験があります。最初は戸惑いがありましたが、障害児の成長を身近に感じることができ、やりがいを感じられました。本記事を参考にし、徐々に統合保育でのスキルを身につけていきましょう。

この記事を書いた人
岡本

ゆぴ  元保育士ライター

保育士歴9年。ピアノが得意で、子どもと一緒に歌をうたうことが好きでした。現在は、専業主婦兼Webライターとして活動中です。保育士や保育士を目指す方の、力になれるような記事を執筆しています。

目次

統合保育とは

統合保育とは、障害のある子どもとない子どもを同じ空間で保育することです。

本来障害児は児童発達センター、障害児通所施設などに通うイメージがあると思いますが、近年は下記の理由などにより障害児を受け入れる保育所や子ども園が増えています。

  • 保護者が子どもの障害に気がついていない
  • 子どもの障害を受け入れられない
  • 健常児と同じクラスで過ごしてほしい思いがある
  • 障害児施設の定員超え

統合保育では障害児と健常児が同じ活動をしますが、発達面や学習面に大きな差が出てしまうため、カリキュラムを工夫する必要があります

統合保育とインクルーシブ保育の違いとは?

統合保育とインクルーシブ保育の大きな違いは「対象」です。

障害児を通常保育に巻き込みながら個別支援を行う統合保育に対し、インクルーシブ保育では全ての子どもが必要な支援を受けられる保育を提供しています。

対象が異なることで、基本概念や環境整備、目的にも以下のような違いが出てきます。

統合保育インクルーシブ保育
基本概念インクルーシブの理念を達成するために、具体的な仕組みや支援を導入する子ども一人ひとりを理解し、全員が最大限に学べる環境を提供する
対象健常児及び発達障害、身体的障害、精神障害などの障害を持つ子ども年齢、性別、国籍、障害の有無に関係ない全ての子ども
環境の整備バリアフリーや聴覚、視覚への配慮、落ち着いて過ごせる空間の導入バリアフリーや聴覚、視覚への配慮、落ち着いて過ごせる空間及び言語面の配慮
目的障害児と健常児が同じ空間で生活し、互いに刺激を与え共に成長する多様性を受け入れ、全ての子どもに平等な教育を提供する

統合保育のメリット・デメリット

統合保育では、障害を持つ子どもとそうでない子どもが一緒に生活することで、多くの学びや気づきが生まれます。

しかし、全てがメリットというわけではなく、両者それぞれに負担や課題などのデメリットもあるのを知らなければなりません。

ここでは、障害児と健常児それぞれの視点からメリット・デメリットを解説します。

障害児にとっての統合保育のメリット

障害児にとっての統合保育のメリット
  • 社会性・コミュニケーション能力が育つ
  • 興味や関心が広がりやすい

障害児は健常児と同じ空間で過ごすことで、集団生活での過ごし方、ルールといった社会性やコミュニケーション能力が育ちやすくなります。

遊びや活動を通して挨拶、順番などの社会スキルが自然に学べるので、障害の有無に関わらず協調性が伸ばせる経験を導入すると良いでしょう。

また、クラスメイトの行動を観察したりや様々な活動経験を行なったりして、障害児の興味関心を広げる効果もあります。

発達や身体に障害がある子どもに刺激を与えられるように、保育計画の内容を検討してみてください。

障害児にとっての統合保育のデメリット

障害児にとっての統合保育のデメリット
  • 誤解や偏見を受けることがある
  • 周囲のスピードに合わせるのが難しい

障害児と健常児が一緒に生活していると、「どうしてお話しできないの?」「〇〇くんはすぐに大きい声を出す子」のように、どうしても誤解や偏見を受けやすくなります

場合によっては偏見により障害児が孤立してしまう可能性もあるので、健常児が疑問を感じた際に保育者は丁寧に伝えていく必要があるでしょう。

また、クラスの活動についていけず障害児がストレスを感じることがあります。

製作や集団遊びなど理解が難しい活動は、無理のない範囲で参加させるのがポイントです。

健常児にとっての統合保育のメリット

健常児にとっての統合保育のメリット
  • 思いやりや協力する心が育つ
  • 多様性を理解するきっかけとなる

障害児に対し自分と違いがあることをそれとなく理解し、関わりながら助けたり受け入れたりしようとする心が育ちます

年齢が上がるにつれ、身の回りの世話や歩くスピードを合わせるなど、思いやりながら接する姿が自然と増えていくので、保育者は適度に加配児のサポートをしながら子ども同士のやりとりを見守ってあげると良いです。

また、障害児と関わる機会を作ることで「皆違って当たり前」という価値観が生まれ、偏見の少ない子に育ちます。

今後社会に出た時も、思いやりを持ち全ての人と平等に関わる人間の土台作りとなるでしょう。

健常児にとっての統合保育のデメリット

健常児にとっての統合保育のデメリット
  • 障害児との関わり方に戸惑いを感じることがある
  • 保育者に構ってもらえないと不満を感じることがある

普段関わる機会がない障害児との接し方が分からず、戸惑ったり距離を置いたりする姿が見られるでしょう。

その都度保育者が仲介に入り障害児との関わり方を示してあげることで、子どもたちは徐々に障害児との距離の掴み方を覚えていくので根気強く実践してみてください。

また、保育者が加配児に付きっきりになる場面が多い分、周りの子どもが「自分は見てもらえない」と不満を感じることがあります。

加配児担当の保育者と協力しながら、子ども一人ひとりと平等に関わる意識が大切です。

統合保育で保育士に求められること

統合保育では、通常保育に加え障害児に対する関わり方を熟知する必要があります。

自閉スペクトラム症や注意欠如多動症などの知的障害から聴覚障害、肢体不自由といった身体障害まであらゆる種類の障害があるため、一通り症状や支援方法を学んでおきましょう。

その他にも、統合保育で保育士に求められることをご紹介します。

一人ひとりに合わせた関わり方

先述した通り、統合保育では様々な障害を持つ子どもに対し保育を行うため、一人ひとりに合わせた関わり方が大切です。

障害の種類別に適した関わり方の一例を、以下にまとめました。

  • 聴覚障害や視覚障害…聞きづらさや見づらさに配慮し、他の感覚を活用したサポートをする
  • 自閉スペクトラム症や注意欠如多動症…落ち着ける環境を用意する、絵カードを使用し次の予定を伝える
  • ダウン症…言葉で詳しく説明する、こだわりを否定せず受け入れる

個々に寄り添った援助をするためには、次項目にある障害に関する基礎知識を頭に入れておく必要があります。

障害に関する基礎知識

統合保育を行う際は、障害に関する基礎知識を身につけておくと良いです。

  • 障害の種類と特性
  • 特徴的な行動の背景
  • 発達段階に応じた支援方法
  • 保護者との連携方法

子どもに対する理解や適切な支援を行うために、最低限度の知識を頭に入れておきましょう。

医療的ケアや運動療法が必要な子どもに関しては、主治医や園の看護師、理学療法士など専門スタッフと連携して情報共有することも大切です。

チームでの連携と情報共有

質の高い統合保育を提供するためには、チームでの連携と情報共有が欠かせません。

統合保育を行うチームには、以下のように多くの職種が関わっています。

  • クラスの担任
  • 園長、主任
  • 児童指導員
  • 病院の主治医
  • 看護師
  • 理学療法士、作業療法士

チームの連携が怠ると子どもが安心して過ごせなくなるだけでなく、保育者同士のトラブル、保護者との関係悪化などに繋がる恐れがあります。

体調の変化や成長した姿、普段と異なる姿など、些細なことでも構わないのでこまめに伝え合える場を設けましょう。

統合保育で磨かれる保育士のスキル

統合保育に携わることで、子どもだけでなく保育者自身も自然と大きく成長します。

多様な子どもと関わる中で、障害への知識や臨機応変な対応、保護者とのコミュニケーションスキルなどが身につくでしょう。

保育者としてレベルアップしたい方は、統合保育を行なっている施設への転職も視野に入れてみて下さい。

経験に基づいた障害児への知識

統合保育を通して障害児と関わっていると、経験に基づき障害への知識が深まります

  • 障害を「特性」でなく「個性」として見れるようになる
  • 行動の背景理解が熟知できる
  • 年齢と発達段階が合っていない場合の接し方が分かる
  • コミュニケーションの多様性を学べる

上記のように、「障害を持っている子」ではなく「1人の子どもとしての〇〇君」という見方が自然にできるようになるでしょう。

障害児保育の経験がないと不安に感じると思いますが、次第に理解が深まっていくため心配はありません。

臨機応変な対応

統合保育では特性が異なる子どもと関わるため、臨機応変な対応が磨かれます

具体的な対応例を一部ご紹介します。

  • パニックになり泣き出してしまう…静かな場所に移動し、安心できるよう声かけをする
  • じっとして話が聞けず歩き回る…無理に座らせず保育者の膝や落ち着けるスペースで聞けるようにする
  • 活動に参加できず部屋を飛び出してしまう…子どもの気持ちを受け止めながら見守り、絵カードや言葉で次の活動に参加できるよう伝える

統合保育の経験を積んでいけば、一律のルールに捉われず個々に合った対応を重視できるようになるでしょう。

保護者とのコミュニケーションスキル

保護者とのコミュニケーションスキルも、統合保育で育つ技術の一つです。

障害や配慮が必要な子どもを支援する上で、保護者との連携は欠かせません。

  • 保護者に寄り添う「聞く力」
  • 言葉の伝え方や選び方
  • 信頼関係の築き方
  • 相談対応力

統合保育において、保育者は保護者と共に子どもをサポートする重要な役目を果たす必要があります。

その中で、自然と話す内容や言葉の選び方、信頼関係の築き方などが学べるでしょう。

統合保育の経験が活かせる保育園以外の施設

統合保育の経験を活かせる保育施設は、保育園以外にも児童発達支援センターや放課後等デイサービスなどがあります。

一般保育に関する知識や実践方法は保育園でも十分学べますが、「障害の知識を深めたい」「障害児と関わる時間を増やしてスキルを磨きたい」という方は、保育園以外の施設で働いてみても良いでしょう。

ここでは、児童発達支援センターと放課後等デイサービスの特徴や役割を簡単にご紹介します。

児童発達支援センター

児童発達支援センターの特徴
  • 主に0歳〜6歳児を対象とした福祉サービス
  • 児童指導員・作業療法士・理学療法士・言語聴覚士などの専門スタッフがチームで支援する
  • 個別支援とグループ支援を組み合わせて活動を行う

児童発達支援センターは、発達に支援が必要な子どもとその家族を対象に専門的な支援を行う施設です。

個々の発達段階や課題に合わせ、個別支援とグループ支援を行い日常生活に必要な力を育てていきます。

子どもだけでなく、保護者に対しても障害を持つ子どもとどう関わっていくべきなのかを指導しています。

保育所等訪問支援事業も児童発達支援センターの特徴の一つです。

通園している園と連携を取りながら、園での困りごとや支援方法の助言も行なっています。

放課後等デイサービス

放課後等デイサービスの特徴
  • 発達支援が必要な小学生〜高校生を対象とした福祉サービス
  • 放課後や長期休暇中に通う
  • 家庭や学校と連携しながら療育支援を行う

放課後等デイサービスは主に就学後の子どもを対象とした福祉サービスで、障害がある子どもはもちろん、医師の診断がなくても市町村の許可が降りれば利用できます。

発達支援だけでなく、放課後や長期休暇中の居場所支援であるのもポイントです。

個別支援計画を元に、学習支援やソーシャルスキルトレーニング、余暇活動などが行われます。

児童発達支援センター同様、家庭や学校との連携を重視し、情報共有しながら支援をしていますよ。

統合保育が行われている施設の事例

ここでは、実際に私が過去に勤めた保育施設で行なれている統合保育の事例をご紹介します。

統合保育の事例
  • 活動の切り替えが難しい自閉症の子どもに対し、絵カードを活用して今日の活動や次にすることを伝える
  • 身体障害で酸素ボンベを使用している子どもは、かけっこやリズム遊びなどにできる範囲で参加できるようにする

私は、過去に自閉症を持つ女児と発達障害、身体障害を持つ医療的ケアの男児を別々の施設で受け持った経験があります。

どちらの施設でも、障害があるからと特別対応にこだわらず、できる限り健常児と同じ活動ができるように配慮していました。

どうしても理解や参加が難しい場面では、個別に分かりやすく説明したりできる範囲で参加できるようにしたりして工夫していました。

統合保育を行うときの注意点

「障害児と健常児を同時に保育するには、何に気をつければ良いのだろう?」と、気になる方はいると思います。

統合保育を行うときには、保育者同士での連携や保護者との信頼関係の構築を心がけましょう。

保育者間の連携や保護者とのコミュニケーションが上手くいかないと、子どもの育ちや安心感に大きな影響を与えてしまうかもしれません。

子ども同士が関係を築くためのサポート

統合保育では、障害児とそうでない子ども同士が関係を築くためのサポートをしましょう。

もちろん、保育者は障害児に付き添い必要な援助をしなければなりませんが、それだけでは子ども同士の交流が生まれません。

障害児と健常児が一緒に関わりながら活動をすることで、障害児は社会性やコミュニケーション能力、健常児は思いやりの気持ちが育ちます。

特に3〜5歳児であれば子ども同士でも十分にやりとりができるので、保育者は必要以上に手を差し出さず、仲介の役割意識を持つことが大切です。

保育士間での認識のすり合わせ

統合保育で障害児と関わる機会がある際は、必ず保育者間で認識のすり合わせをしておきましょう。

保育者が持つ保育観はそれぞれ異なるため、事前に保育方針を決めておかないと以下のような問題が発生します。

  • 保育者によって対応が異なり子どもが混乱してしまう
  • 子どもの行動解釈が食い違ってしまう
  • 保護者対応にズレが生じる
  • 保育者間で対立してしまう

保育を行う中でも定期的に話し合ったり会議を開いたりして、互いの考え方を把握しすり合わせることが大切です。

保護者との信頼関係を築くこと

統合保育において、保護者と信頼関係を築くことはとても大切です。

  • 家庭と園での子どもの姿を共有するため
  • 家庭と園で対応がバラバラにならないようにするため
  • 保護者と一緒に子どもの育ちを支えるため
  • 保護者に信頼してもらうため

上記のように、保護者と信頼関係を築くのには明確な理由があります。

保護者と「子どもの成長を一緒によろこべる関係」を築くために、丁寧なやり取りや気持ちに寄り添う姿勢を意識してみてください。

【先輩保育士より】これから統合保育に携わる保育士さんへメッセージ

統合保育を行うにあたり、「障害の知識がないけれど大丈夫かな?」「子どもの障害を周囲に上手く説明できるかな?」など不安を感じているかもしれません。

そのような不安を持っている保育者の方は、まずは最低限の障害の知識を頭に入れておきましょう。

障害の知識があるかないかで、子どもへの対応に差が出ます。

【元保育士】ゆぴライター

私は障害の知識を十分習得していない状態で加配児の担当を任されてしまい、子どもとの関わり方が分からず保育中に涙した経験があります。

書籍を読む、先輩保育士に障害児への関わり方を教えてもらう、研修会に参加するなど様々な方法で勉強できるので、自分に合った方法を実践してみてください。

まとめ

統合保育とは何かについて保育現場での事例やメリットデメリット、注意点を解説しました。

障害児と健常児が交わり互いに成長し合える統合保育の需要は年々高まっており、多くの保育施設で取り入れられています。

納得のいく統合保育を行うためには、障害に関する知識やチームの連帯が必要です。

障害を学んだり保育者との情報共有を意識したりしながら、子どもたちが楽しく過ごせるような環境作りを目指していきましょう。

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この記事を書いた人

保育士歴9年。ピアノが得意で、子どもと一緒に歌をうたうことが好きでした。現在は、専業主婦兼Webライターとして活動中です。保育士や保育士を目指す方の力になれるような記事を執筆しています。

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