意図的に子どもが大人を困らせる行為を、「試し行動」と呼びます。
大人が自分をどこまで受け止めてくれるか探りたくて、わざと良くない行いをしてしまうのです。
この行為自体は、子どもの愛着形成や成長、発達、自立のために重要なサインであるため、まずは気持ちを受け止めることが大切です。
この記事では「試し行動」とは何か、その原因や特徴について解説します。
子どもの試し行動とは何か?
子どもが示す試し行動は、成長過程や自立への重要な一環です。
この行動を通じて、子どもは自分の存在意義を確かめ、人との関わり方や環境への適応力を学びますが、頻度が高すぎると周囲の負担になりかねません。
適切な対応をすることで、試し行動が軽減し、子どもとの信頼関係を築くきっかけになります。
親や保護者が行動の背景を理解し、冷静かつ一貫性を持って接することが大切です。
結果として、子どもの安心感を深め、健やかな成長を支えることにつながるでしょう。
参照:幼児教室・学習支援教室のLITALICOジュニアTOP
子どもが見せる試し行動の例
- 大声で泣きわめく
- 何度も同じルールを破る
- 「嫌い」と何度も言う
- 食事を拒む
- おもちゃを投げつけてくる
- 夜泣きが増える
- 他者に暴力を振るう
子どもが「ダメなこと」と認識しながら繰り返す上記に挙げた行動、それが試し行動の例です。
「前はできていたのに…」と思う行動や、「わざと困らせているのでは?」と大人が感じる場面もあるかもしれません。
このような行動は、育児方法が悪いわけではなく、成長過程でよく見られるものです。
試し行動は自然に消失するものではなく、大人からの愛情が十分だと子どもが確信するまで形を変えながら続くので、対応には忍耐と理解が欠かせません。
子どもが試し行動を取る理由
試し行動の目的には、大人の愛情を確かめる意図が含まれています。
例えば、良くない行動をあえて選ぶことで、「どこまで自分を受け入れてくれるのか」を探る場面も見られます。
こうした行動は、背景に明確な理由があることが多いです。
特に、相手の反応を見て自分の価値を確認しようとするため、大人は冷静に接し、その行動の意図を汲み取る必要があります。
これが、子どもとの関係を深める第一歩となるでしょう。
愛情を確かめたい気持ちから
「お母さんは私をどれだけ思ってくれているの?」
「悪いことをしても嫌いにならないの?」
子どもが大人の愛情を確かめるために試し行動を取ることがあり、自分の感情をうまく言葉にできない場合、行動で訴えかけるケースが多いです。
これは決して「愛情不足」を意味するわけではなく、ちょっとした不安や疑念から起きるものです。
このため、子どもが安心できるように丁寧に応えることが重要で、柔軟で愛ある対応こそが、子どもの心の安定に繋がります。
気持ちや環境変化への対応
環境の変化は、ある出来事がきっかけで、子どもが試し行動を取ることがあります。
たとえば、保育園への入園、新しい兄弟姉妹の誕生、引っ越しなど、日常が大きく変わる出来事は、幼い心に予想以上の不安を与えます。
特に、これまで慣れ親しんでいた環境などが急激に変わると、子どもはその変化を受け入れられず、気持ちが整理できず、無意識に試し行動を取るのです。
こうした行動は、子ども自身が抱えるストレスや混乱を表しているサインと捉えられます。
そのため、大人は子どもの気持ちに寄り添い、安心感を与える対応が重要です。
自分をどこまで受け入れてくれるか知りたい
試し行動には、「どんなことをしても自分は大切にされているか」を確かめる意図があります。
子どもは意識せずに良くない行動を選び、相手の反応を見て愛情や信頼を確認するのです。
このため、大人が冷静に対応しながら、「あなたはかけがえのない存在だ」と言葉や態度で示すことが重要です。
行動を否定せず、間違いには誠実に向き合う姿勢を持つことで、子どもの安心感を育むことができます。
試し行動が落ち着くと、子どもはより自立した行動が取れるようになってきます。
試し行動への対応策
明確な目的や理由が存在することが多い「試し行動」ですが、繰り返されると保護者の疲れにつながることがあります。
この行動に向き合うためには、まず背景や動機を理解することが大切です。
例えば、怒るのではなく、穏やかな口調で子どもが抱えている不安や疑問を尋ねてみるのも良い方法です。
さらには、気持ちを言葉や手紙で伝えるなど、新しいアプローチを試みることも有効です。
子どもが試し行動を通じて自分の感情を整理できるようサポートし、信頼関係を築くことを目指しましょう。
試し行動を取る理由を知る
試し行動は、大人に対する信頼と愛情を確認する行為でもあります。
特に、子どもが「この人なら大丈夫」と安心するまで続くことが一般的です。
この行動を単なる困らせ行動とみなすと、問題が長引くだけでなく関係性の悪化にもつながります。
重要なのは、冷静に向き合い、子どもが安心感を得られるような言葉や態度で応えることです。
「信頼できる存在がいる」と子どもが実感することで、試し行動は徐々に収まる可能性が高まるでしょう。
参照:試し行動への対応
子どもに愛情を伝え続ける
試し行動への対応は、日常的に子どもに愛情を伝えることから始まります。
「どんなときでもあなたを大切に思っている」と、言葉や行動で示す努力が求められます。
それでも試し行動が続く場合は、子どもの不安や愛情を求める気持ちを理解しようと努める姿勢が重要です。
子どもが心から受け入れられたと実感できると、安心感に基づいた行動や感情表現が可能となります。
その結果、試し行動の頻度が自然と減少し、子どもの心も穏やかになるでしょう。
良い行動と悪い行動を正しく伝える
試し行動に対応する際には、許容できる行動とそうでない行動の境界を明確に伝える必要があります。
子どもは善悪を認識しつつも、「どこまでなら許されるか」を試すために行動がエスカレートすることがあります。
まずは冷静に観察し、行動の背景を見極めることが大切であり、次に行動の善悪を明確に伝えることが重要です。
感情的にならず、一貫した対応をすることで、子どもが善悪の判断を学び、健全な成長を促す手助けになります。
子どもの気持ちを受け止める
試し行動を減らすには、日常から子どもの気持ちに寄り添い、共感を示すことが重要です。
例えば、子どもいたずらをする場合、その行動の背後に隠された感情を理解しようと努めることが求められます。
大人が感情的にならずに対応し、「どうしてこんなことをしたのかな?」と優しく問いかけると、子どもは自分の行動を説明しやすくなります。
また、子どもの小さなサインに気付き、「見ているよ」「聞いているよ」という姿勢を示してください。
その声掛けによって子どもの安心感が高まり、試し行動の頻度が減少することが期待されます。
スキンシップや会話の時間を増やす
愛情表現をしっかり行うことで、試し行動を減らしていきましょう。
「大好きだよ」と伝えることはもちろん、ハグや手をつなぐなどのスキンシップを通じて、子どもが安心感を得られることが必要です。
肌のぬくもりを感じる機会を増やせば、大人との絆を深めることができます。
また、スキンシップを通じて感情を共有することで、子どもが自らの不安やストレスを大人に伝えやすくなり、適切な対応を重ねることで次第に減っていきます。
一貫性を持った対応を行う
気持ちを受け止めるからといって、試し行動を「許す」という意味ではありません。
物を壊したり友達や兄弟を傷つける行動は、一貫して叱る必要があります。
「叱る」と聞くと、愛情不足で試し行動が続くのではと不安になる人もいるでしょう。
しかし、「ダメなんだよ」と伝えることも愛情です。
ただし、大人の機嫌によって注意の基準が変わるのは問題です。
禁止事項を伝える際は「どんなあなたでも大好き」と表現して、繰り返し示しましょう。
子どもの試し行動へのNG対応
- 感情的に怒る
- 無視する
- 行動を否定するだけ
- 体罰を与える
試し行動への対応は、子どもの心の声に耳を傾け、冷静で一貫性のある態度を取ることが非常に大切です。
もし怒ったり無視をしてしまうと、「自分は大切にされていない」と感じる可能性があり、問題行動の悪化につながる恐れもあります。
NG対応を避け、子どもの感情を受け止めながら、適切な行動を促す方法を一緒に考えることが、信頼関係の構築につながります。
一方、叱る際も「なぜその行動が良くないのか」を説明するなど、教育的な姿勢を忘れないことが大切です。
子どもの愛着障害と試し行動との関係性
愛着障害を持つ子どもは、愛情や安心感を求めながら、相手がどう反応するかを試す「試し行動」をとります。
子どもと養育者の間で愛着が形成されない場合、心に問題が起こることがあります。
いずれも子どもの成長には、環境や育て方が深く関係しているでしょう。
以下で、愛着障害における主な特徴と試し行動について詳しく解説していきます。
回避型愛着障害の子どもの特徴と試し行動
回避型愛着障害の子どもは、他者との距離感に課題があり、試し行動を通して接触を試みている場合があります。
回避型愛着障害の特徴は次のとおりです。
- 親と引き離されても特に感情を示さない
- 人と目を合わせない
- 自分から抱っこされようともしない
- 親密な関係を避ける
- 感情表現が乏しい
- 自分以外の人と深く関わることがストレスに感じてしまう
- 周りの人との関係性において、感情的な親密さを持つことを避ける傾向がある
葛藤型愛着障害の子どもの特徴と試し行動
葛藤型愛着障害の子どもの愛着関係では、矛盾した感情や行動が混在することがあります。
また、試し行動を行う子どもの心理には不安や緊張、好奇心、自己主張などの感情が関与しているでしょう。
葛藤型愛着障害の子どもは、試し行動として以下の特定の行動を示す場合があります。
- 親から離されると激しく泣くが、母親が抱っこをしようとしても嫌がる
- 親がかまってくれるときと無関心なときの差が大きい
- 依存と独立の間で揺れ動く
- 愛着行動が一貫しない
- 感情の起伏が激しい
混乱型愛着障害の子どもの特徴と試し行動
混乱型愛着障害(未解決型)は、回避型と不安型が混在して不安定な状態になりやすい愛着障害の一種です。
虐待や精神状態が不安定な親の子どもに多く見られ、親の行動が予測不能であることが多いのが特徴です。
混乱型愛着障害の特徴には、次のようなものがあります。
- 一貫性のない無秩序な行動パターンを示す
- 安定しない感情表現
- 対人関係の混乱
- 過度な心配や不安
- 自己評価の不安定さ
混乱型愛着障害の子どもは、上記のように特に一貫性のない行動パターンを示す傾向があります。
試し行動と似ている発達障害の特性
この行動は「リミットテスティング」とも言われ、子どもがわざと不適切な行動を取るのは、大人の反応を観察するためです。
発達障害の特性と試し行動と似ているかどうかを、以下で解説していきます。
発達障害には、主にADHD(注意欠陥・多動性障害)やASD(自閉スペクトラム障害)などがあります。
発達障害の診断は、医師が問診や行動観察などを行い、診断基準を満たしているかどうかを総合的に判断してください。
パニックを起こしやすい
発達障害の子どもが試し行動を行う場合とパニックを起こす場合は、次のような違いがあります。
- 試し行動では視線が合うことがが多い
- パニック時は視線を合わせるのが難しい
発達障害は脳機能の発達が関係する障害で、特性による苦しさや生きづらさ、ストレスが原因でパニック障害を引き起こすことがあります。
特に注意欠陥多動性障害の方は、パニック障害を発症しやすいといわれています。
参照:発達障害の子どもと「試し行動」。問題行動への対応法や感情の管理
感情や行動がコントロールできない
発達障害の特性として、感情や行動のコントロールが難しい場合があります。
特に、ADHD(注意欠如・多動性障害)では、衝動的なものや多動的、ストレスに弱い、感情のコントロールが難しい点が特徴です。
発達障害を持つ子どもの試し行動には、自分をどの程度まで受け止めてくれるかを探るためであると考えられています。
子どもは悪いことだと分かりつつも、わざと大人を困らせる行動を取り、その反応を探ることがあります。
参照:【専門家・体験談】「感情のコントロールができない」子どもとどう向き合う? しんどいときは?
声をかけても無反応
声をかけても無反応の場合、発達障害が関係している可能性があります。
発達障害の一種である自閉スペクトラム症(ASD)の可能性も考えられるでしょう。
発達障害の子どもが無反応なのは、特定の状況下で見られることもあります。
- 行動を切り替えるのが苦手、言外の意味を理解するのが苦手である
- 音の聞こえ方がふつうとは異なり、呼ばれていることに気づかない場合がある
- 複数のことを同時に行うのが苦手である
軽度であっても、適切なサポートを受けることで、子どもが自信を持って成長できるようになります。
参照:列に並べない、呼びかけに無反応…ほかの子と『何かが違う』と気づいた3歳児検診。
子どもの試し行動に悩んだら専門家に相談するのも方法
試し行動は、悪いことをわかっていながら、あえて大人を困らせるような行動を取り、周りの反応を見つつ試し行動を取ることがあります。
子どもが「よくないことだ」とわかっていながらわざと行う行動を指し、一般的に2歳頃から始まり、小学生以降でも起こりうる行動です。
イヤイヤ期や反抗期とは異なり、試し行動は望ましくない行動を取りつつ、大人の顔を伺う点が特徴です。
子どもが試し行動を起こし、その対応に悩み苦しんでしまったら専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
試し行動は、子どもが大人に自分の感情や信頼関係を確かめたいときに現れる重要なサインで、成長過程において欠かせない行動です。
一見困った行動のように見えますが、その裏には「受け入れてほしい」「愛情を確認したい」といった深い思いが隠されています。
大人が冷静に受け止め適切に対応することで、子どもは自己肯定感を育み、安心して成長できます。
本記事で紹介した方法を参考に、試し行動を前向きに受け止め、子どもとの信頼関係をより深める手助けとなれば幸いです。
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