障害のある子どもたちが、健やかに育ち、安心して過ごせる環境を整える障害児保育に興味を持つ人もいるのではないでしょうか。
実際に携わるとなると、必要な支援の知識や障害への理解、環境づくりなど、学ぶべきことは多いです。
すべての子どもが等しく成長の機会を得られるようにするには、保育現場でどのような関わり方ができるのか、保育士として悩みながらも真剣に考える必要があります。
本記事では、障害児保育の定義や必要性、現状と課題、さらに具体的な支援のポイントまでを詳しく解説していきます。
- 障害児保育とは、障害を持っている子どもに対して必要なサポートを行うこと
- 年々ニーズが高まってきて、10年前と比較すると倍の受け入れ数がある
- 保育現場では、人材不足や障害児保育への知識・経験不足などの課題がある
- 障害への理解も必要だが、目の前の子どもの対応やその先の保護者とのコミュニケーションも大事

まずは障害に関心を持つことが、障害児保育のスタートラインです。
今の自分にどんなことができるか、これからどんなことを学べばいいかを一緒に考えてみましょう。


ちあき
認可保育園で勤務後退職して留学。その後は英語の幼稚園で働く。結婚を機に派遣保育士に転身し、さまざまな園で経験を積む。保育士歴は通算7年ほど。
子どもが重度アレルギー児になったことでライターに転身した2児の母。
障害児保育とは
子ども一人ひとりの違いを尊重しながら、その子に合った関わりや配慮を行うことは、保育の原点ともいえる大切な姿勢です。
障害児保育とは、何らかの障害のある子どもに対して、必要な支援やサポートをすることです。
本章では、障害児保育の基本的な意味や目的について詳しく紹介します。
障害児保育の定義
障害児保育とは、身体的・知的・精神的な障害、または発達に遅れのある子どもたちに対して、日常生活や集団生活を行えるようサポートする保育です。
障害の種類や程度に合わせたサポートを行い、障害のある子どもが自分らしく過ごせるよう、個別的で丁寧な関わりが求められます。
また、障害児保育は、障害のある子どもの自立や社会性の育成だけでなく、保護者の安心にもつながります。
障害児保育が必要とされる理由
障害のある子どもは、日常生活や集団生活の中で困りごとを抱えやすく、新しい環境や活動に適応するのに時間がかかります。
そんな子どもたちが自分のペースで安心して生活できるようにするには、周囲の理解と専門的な支援が不可欠です。
また、早期の専門的知識を持った丁寧な関わりがその後の発達を促すことにつながると分かっています。
保育の段階でその子に合ったサポートを受けることで、その子の可能性を大きく広げることができるのです。
障害児保育の現状と課題
障害児保育のニーズは年々高まっています。
同時に障害児を受け入れる保育施設も増加傾向にあります。
しかし、現場では人手不足や知識や経験の差、制度面の課題など、まだまだ乗り越えるべき壁があります。
本章では、現状と課題を整理してお伝えします。
障害児保育の現状
障害児保育を実施している保育施設は年々増加しており、障害がある子どもの受け入れ数は約9万人とされています。
10年前と比べると約2倍に増えていることからも、障害児保育が求められていることが伺えます。
また、子ども家庭庁からも障害の有無による保育の提供を拒否する、提供する時間帯などを制限することのないように通知が出されています。
国全体で障害児保育への支援体制の強化に動いていることがわかります。
障害児保育の課題
障害児保育が求められる一方で、課題も少なくありません。
昨今の保育士不足で加配保育士の人材確保が難しかったり、サポートに必要な専門知識の不足、経験不足による戸惑いがあったりなど、保育士個人に負担が偏る状況が続いています。
また、障害のある子どもの保護者とそうでない保護者との関わりがうまく取れないケースや、他の子どもとの関係づくりが難航することもあり、クラス全体のバランスを取る難しさが指摘されています。
加配保育士の役割と仕事内容
加配保育士は、障害や発達など日常生活や集団生活に課題を抱える子どもに対して、きめ細やかなサポートを行う保育士です。
通常の子どもの人数ごとに配置されている保育士とは別に、特別な配慮が必要な子どもをサポートする目的で配置されるため「加配保育士」と呼ばれています。
- 特定の子どもの保育活動への参加をサポートする
- 子どもが安心できる環境を整えるための工夫を行う
- 保護者や他の保育士と連携して支援の方向性を共有する
子どもが安心して園生活を送れるようにするため、周囲との関係づくりや活動参加のサポートなど、多岐にわたる役割を担っています。
障害児保育に必要な資格やスキル
加配保育士として障害児保育に関わるために必要とされる資格は、保育士資格です。
加配保育士資格という特別な資格があるわけではありませんが、障害への理解や専門的な知識が必要です。
民間資格では、児童発達支援士、発達障害支援士などの資格を取得すると、障害児保育に関する専門的な知識が得られるので役に立つでしょう。
障害に関する研修へ積極的に参加することで、下記のようなスキルは磨かれます。
- 発達障害や身体障害など、各障害の特性への理解と対応力
- クラス担任保育士や保護者との連携力
- 子どもや保護者との信頼関係を築く力
保育園以外の障害児保育を行う施設
障害児保育は保育園以外にも、さまざまな施設で行われています。
- 児童発達支援センター
- 医療型施設
- 小規模療育施設
- 放課後等デイサービス など
地域によって施設の種類や対象年齢が異なりますが、どの施設でも障害のある子どもたちが安心して過ごせる場所です。
保育園に通いながら、療育に通うケースなど、子どもの障害の程度や種類によってさまざまです。
障害児保育で大切な5つのポイント
障害児保育を実践するときに、保育士が意識しておきたい基本的なポイントがあります。
以下の5つのポイントは特別なことではないので、初めて障害児保育に携わる場合でも、いつもの保育の延長線上に捉えて意識しやすいでしょう。
障害のある子どもがクラスで安心して過ごせるように、しっかり確認してくださいね。
①障害への理解を深める
障害についての知識を深めることは、障害がある子どもへの理解を深める第一歩です。
ただし、「この障害にはこういう特性がある」と知識にとらわれすぎると、目の前の子どもの行動や気持ちを見落としてしまうことも考えられます。
大切なのは、知識をベースにして実際の子どもの姿を照らし合わせて、その子の障害についての理解を深めていくことです。
一人ひとりの特性を丁寧に見つめながら、理解を深めていくことが求められます。
②子どもとの信頼関係を築く
どんな子どもにとっても、信頼できる大人の存在は安心して過ごすための土台になります。
朝の挨拶や日々のやり取りを丁寧に重ねること、小さな「できた!」を一緒に喜ぶことが、信頼関係の積み重ねにつながります。
特に障害のある子どもは言葉で気持ちを表すのが難しい場合もあるため、表情や仕草から思いを汲み取りながら関わりましょう。
焦らず、長期的な視点でその子のペースに寄り添って信頼関係を築くことを目指すのをおすすめします。
③子どもに合わせた配慮をする
障害のある子どもと一口に言っても、特性や得意・不得意、好き嫌いは一人ひとり異なります。
同じ障害名でも支援の方法が変わるのが当たり前のことです。
例えば、言葉でのコミュニケーションが難しい子には、視覚的に伝えるスケジュール表や絵カードを使うことで、安心して行動に移せるようになります。
その子にとって「わかりやすい」「やりやすい」方法を見つけ、個に応じた配慮を重ねていくことが大切です。
④周囲の子どもへの理解とサポートも大切にする
障害のある子どもと一緒に過ごすことで、周囲の子どもたちも違いを受け入れる力や思いやりを育む機会となります。
ただし、障害のない子どもがずっと我慢する関係性にならないよう、保育士の配慮が欠かせません。
困ったときには誰もが「困っている」と言える空気を作り、障害については年齢に応じた伝え方で少しずつ理解を深められるよう支援しましょう。
すべての子どもが安心できる環境を目指すことが大切です。
⑤保護者との連携を丁寧に行う
障害のある子どもを預けることに、不安を抱える保護者は少なくありません。
だからこそ、日々の小さな変化や成功体験を丁寧に伝えるなど、細やかなコミュニケーションが欠かせません。
また、障害のある子どもの育児は孤立感や悩みを抱えやすいため、保育士として寄り添い、一緒に考える姿勢が大切です。
必要に応じて専門機関につなげるのも保育士としての大切な役割の1つです。
子どもが言葉で気持ちを伝えにくい場合もあるからこそ、丁寧な保護者とのコミュニケーションを心がけましょう。
障害児への理解を深めるためにできること
障害児保育は目の前の子どもの様子によって日々対応が変わるため、毎日の実践に加えて常に学び続ける姿勢がとても大切です。
子どもたちと向き合う中で「もっと理解したい」と感じたとき、自分自身の知識を深めることが、より良い支援へとつながります。
障害児への理解を深めるためにできる具体的な行動を紹介します。
障害児保育関連の書籍を読む
障害児保育に関する書籍には、保育関連の障害の特性や支援の方法を解説するものを読むのもいいですが、保護者の思いを綴ったエッセイや日記本などからも学びがあります。
保護者とのコミュニケーションを磨きたいなら、保護者視点からの思いを綴ったエッセイや日記本は、現場での経験だけでは気づけない視点を得られることでしょう。
保育関連書籍にも、話しかけ方にフォーカスした本や環境設定に特化した本もあり、読むことで自分の保育を振り返るきっかけにもなります。
障害児保育に関連する研修や講習会などに参加する
研修や講習会に参加することで、最新の支援方法や他園での具体的な取り組み事例を学べます。
特に他園の障害児保育の取り組みを知る機会は貴重なので、自分の保育を見直す良いヒントになります。
また、研修や講習会をとおして同じ志を持つ保育士との交流も生まれ、良い刺激となり、新たな視点を得られるでしょう。
自治体が主催する無料の研修も多くあるため、積極的に情報を集め、実践に活かしていくことが大切です。
障害児保育関連の資格を取る
より専門的な知識やスキルを身につけたい方は、障害児保育に関する民間の資格取得を目指すのも1つの方法です。
実践的な内容を含む資格も多く、現場での支援にすぐ役立てられる資格は多数あります。
- 児童発達支援士
- 発達障害支援士
- 医療保育専門士 など
資格を通して障害児保育について体系的に学ぶことで、自信を持って子どもや保護者と関われるようになりますよ。
障害児保育のボランティアに参加する
ボランティア活動に参加することで、さまざまな種類の障害を持った子どもたちと直接関わる経験が得られます。
実際の現場で「生きた支援」を体験できる貴重な機会です。
現場の雰囲気を知ることができるだけでなく、自分に合った支援のスタイルを見つけるきっかけにもなるでしょう。



私は学生時代に放課後デイサービスのボランティアに参加したことがあります。
座学で学ぶのと実際は異なり、勉強になりました!
最近よく聞く統合保育とインクルーシブ保育との違いは?
近年、「統合保育」や「インクルーシブ保育」といった言葉を耳にする機会が増えましたね。
どちらも障害のある子どもとない子どもが一緒に過ごす保育スタイルで、同じように感じますが、背景やアプローチには違いがあります。
混同しがちな2つの保育観の違いを本章で確認しておきましょう。
統合保育
統合保育とは、障害のある子どもとない子どもが同じクラスで保育を受けるスタイルです。
「一緒に過ごすこと」そのものに意味があり、障害のある子どもにとっては社会性や集団生活を学ぶ機会となり、他の子どもにとっては違いを受け入れる心が育ちます。
統合保育における支援の特徴は、集団の中で個別に行われる点です。
障害のある子どもの発達段階や特性に合わせた個別の配慮や専門的なサポートを提供することで、その子が無理なく集団生活に参加し、学びを深められるように工夫されます。
インクルーシブ保育
インクルーシブ保育は、すべての子どもが共に育ち、学び合うことを前提とした保育を指します。
障害の有無にかかわらず、それぞれの子どもの違いを尊重し、共に生活することを通じて「みんなが一緒にいられる環境」を整えるアプローチの仕方です。
統合保育が、主に障害のある子どもを既存の集団に受け入れることを焦点とするのに対し、インクルーシブ保育は、すべての子どもの多様性を尊重し、ニーズに応じた対応をするため保育そのものを調整していくイメージです。
【体験談】保育現場での具体的な支援の工夫
私が4歳児クラスの担任をしていたとき、隣のクラスに体の一部に麻痺とてんかん発作をもつ子どもが在籍していました。
合同保育やクラス代替に備えて、担任から発作の対応や普段の様子について細かく教えてもらい、自分なりに対応マニュアルを作成しました。
支援のポイントを可視化し幼児クラスの職員全員が把握できるよう、ミーティングもたくさん行ったからこそ、実際にてんかん発作が起こったとき、連絡や救急車の手配などがスムーズでした。
誰が入っても安心して対応できるようにしたことが、チーム全体で支える土台になったと感じています。
【先輩保育士より】これから障害児保育に携わる人へのメッセージ
障害児保育は、正解が1つではない分、迷うことも多いです。
でも、目の前の子どもの小さな変化や笑顔、何より「できた」に出会えたとき、大きなやりがいを感じられます。
最初から完璧を目指すと、何もできなくなってしまいがちなので、「その子のために何ができるか」を子どもと一緒に考え、子どもと一緒に成長する姿勢が大切だと思います。
自分一人で抱え込まず、先輩やまわりの職員と協力しながら進んでくださいね。
まとめ
障害児保育は、知識と実践を積み重ねながら、目の前の子どもの障害に寄り添い、個別に対応していく保育です。
障害の特性を理解するのはもちろん、環境を整え、保護者や周囲と連携することが、障害のある子どもの安心と成長につながります。
最初は不安もあるかもしれませんが、障害児保育は障害のない子どもにとっても心が育つ保育でもあります。
本記事を参考にして、障害児保育へ挑戦してみてくださいね。
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