保育士が仕事を辞めるときには、前兆があることが多いです。
どんな前兆なのか、気付いたらどうしたらいいのかなど、元保育士が経験を踏まえて解説します。
- 保育士の離職率は高い方ではない
- 保育士の離職の理由は人間関係や処遇、子育てのしにくさなどそれぞれである
- 笑顔が減る、遅刻や早退が増えるなど、保育士が辞める前兆はいくつかある
- 離職の前兆がある保育士には、それぞれの立場でサポートできる
- 保育士を辞めた後も活躍の場はある

「保育士を辞めたい」と思った事がある人は結構多いのではないでしょうか。
自分や同僚などに辞める前兆があった時、人に相談しにくい事もあると思います。
どうすればいいのか、一緒に考えてみましょう。


あん 元保育士ライター
保育士歴11年、現在は2児の母です。公・私立園それぞれで正規・非正規保育士として働いた経験を活かし、役立つ情報をわかりやすくお伝えします。


保育士の離職率は高い?離職理由は?
保育士の離職を考える上で、まず離職率と離職の理由を考える必要があります。
保育士不足が問題となっていますが、そもそも保育士の離職率は高いのでしょうか。
また、保育の仕事を希望してせっかく国家資格を取ったのに、離職してしまうのはなぜなのでしょう。
厚生労働省の調査を元に、保育士の現状をお伝えします。
保育士の離職率
職種 | 保育士(全体) | 保育士(公営) | 保育士(私営) | 医療・福祉全体 | 産業全体 | |||||
離職率 | 9.4% | 6.3% | 10.8% | 15.3% | 15% |
保育士の離職率(常勤)は全体で9.4%と、産業全体や医療・福祉全体と比較すると低めの数字となっています。
また、公営と私営を比較すると公営の方が離職率は低くなっていることは、離職の理由を考える上で見逃せません。
離職により保育士が不足するという事はもちろんですが、経験やノウハウが若い保育士に受け継がれにくい点も問題と言えます。
参考:厚生労働省「保育士の現状と主な取り組み」
参考:厚生労働省「令和4年雇用動向調査結果の概況」
保育士の離職理由
- 職場の人間関係 33.5%
- 給与が安い 29.2%
- 仕事量が多い 27.7%
- 労働時間が長い 24.9%
人間関係はどの職場でも離職の原因のひとつですが、複数担任や異動の無い園では、特に人間関係が難しくなりがちです。
保育士の給与は全体と比べて低い水準となっており、国家資格でありながら若い保育士は特に給与が少ないです。
持ち帰り仕事の常態化に見られるような仕事量の多さや、休憩が取れない、なかなか帰れないといった労働時間の長さも離職の理由となっています。


保育士が辞めた本当の理由とは?SNSにあふれるリアルな声
保育士が仕事を辞める理由は人それぞれです。
国のまとめでは人間関係や処遇の悪さなどが上位にありますが、本音はどうなのか、また背景にはどんな思いがあるのか気になりますよね。
SNSでは、離職した保育士のリアルな思いが綴られています。
統計ではなかなか見えてこないそれぞれの理由や思いを見て、元保育士の目線で解説します。
「お金ない」
保育士の給与の安さは世間でも問題視されているところであり、保育士不足解消のためにも、早く手を打つ必要がある課題です。
あと、元保育士の友人知人が数名。彼らも潜在保育士。辞めた理由は、全員「仕事は好きだけど、薄給激務辛い。お金無い」だった。
この投稿以外にも、「手取り14万円ではきつい」といった書き込みも見られました。
子どもの命を預かる重責を担う立場で、給与が低い事は問題です。
将来や家庭を持つことを考えて給与の低さが理由で離職する人は少なくありません。
保育をしたいのに金銭的な理由で辞めざるを得ない状況は、大変残念ですね。


環境と人間関係
働く上での環境や、人間関係に悩みを抱える保育士は多いです。
定期的に呟くけど私は保育士資格持ってるんですよね。 でも環境と人間関係が劣悪すぎて辞めたから二度と戻る気はない。 多分こういう理由で潜在保育士になってる人、めちゃくちゃいるんじゃないかな。 良い保育園もあるよ、じゃないんだよ。環境と人間関係が最悪な保育園があまりにも多すぎる。
保育士の処遇は見直されるべき点が多く、まだまだ現場の保育士は厳しい状況の中働いています。
また良好な人間関係とは言えない職場は少なくありません。
人間関係が難しい理由は様々ですが、業務の大変さから気持ちの余裕がなくなることは大きな要因です。
また保育に対する考え方は人それぞれ違うことが多く、立場も世代も違う保育士同士が共に理解し合いながら保育することは簡単ではありません。


自分の子どもを大切にしたい
「園児と保護者の支援をすると自分の子育てができない」といったジレンマを抱えて離職した保育士の書き込みです。
私がフルタイムの保育士を辞めた理由の一つが、保育士は子育て支援する立場なのに、当の自分の子育ては支援されないという事。時短勤務はできずパートにならざるを得ない、子供の病気等急な休みをとりたくても代わりの職員がいない。我が子は持たず、他者の子を育てる為に生きろと? おかしいでしょ
保育士は子どもの最善の利益を考え、働く保護者の子育てを支援する立場です。
ですが、保育士自身は子育てをしにくい環境で働いています。
休みを取りにくい、早番や遅番がある、時短勤務できない職場があるなど、子育てをしながらフルタイムで働くハードルは高いです。
園児も我が子も大切にできる環境が整ってほしいものですね。
元保育士が語る「辞める前兆」5選
保育士を辞めようと思っている時、よく見ているといつもと違う様子が確認できることがあります。
仕事を辞めるにはある程度の覚悟が必要ですので、さりげなく過ごしているようでも、いつもと違う行動をとってしまいがちです。
本章では保育士が仕事を辞める前兆を5つご紹介しますので、参考にしてみてくださいね。
① 笑顔が減る
離職を考えているときは先ず、笑顔が減ることが多いです。
離職の原因となっている事柄について悩んでいることもあれば、いつ上司に切り出すかを悩んでいたり、切り出した後嫌な態度を取られないか心配したりと、悩むことが多いので笑顔が減ってしまいます。
私も離職前は、上記のようなことや、辞めるにもかかわらず笑顔でいることで批判的な目を向けられはしないかなど、過剰な心配をして心から笑えなかったことを覚えています。
② 雑談や報告が減る
ちょっとした雑談や報連相は業務をスムーズに行う上で大切ですが、離職はする前には減ってしまうことがあります。
人手不足の職場を離職するという後ろめたさ等から、気軽に話ができないという気持ちになりがちです。
さらには、辞める自分に対して周りがネガティブな感情を持っているのではないかと疑心暗鬼になり、必要な話もできなくなることがあります。
周りを気にするあまり、悪循環に陥ってしまうので注意が必要です。
③ 遅刻・早退が増える
精神的な不調が悪化すると身体に不調をきたし、結果として遅刻や早退が増えることがあります。
ストレスが原因で出勤前に腹痛や頭痛などが起きたり、布団から起き上がれなくなったりしますし、「自然と涙が出る」「保育園に行くのが怖くなる」等といった鬱のような症状が現れることもあるので、ただのストレスと侮れません。
また、職場にいることが辛いと感じることで早退につながりやすいです。
遅刻や早退の増加は本人の健康を思うと心配な状況です。
④ 持ち帰り業務が急増する
保育士の仕事量の多さが原因で持ち帰り仕事が多い事は、問題視されているところです。
業務の増加が今後の働き方を考えるきっかけとなり、結果として転職を選ぶという事があります。
また、仕事量は変わっていなくても、離職を決めたことで持ち帰り業務が増えるという場合もあります。
それまでは時間内に仕事を終わらせようと頑張っていたけど、離職を決めたことにより張りつめていた気持ちが変化し、効率的に作業をしようと思えなくなってしまうのですね。
⑤ 保育士以外の職業に興味を持ちだす
保育士の仕事を辞めたいと考えているときは、辞めた場合の転職先を視野に入れ、他にどんな仕事があるのかを検索しがちです。
私も、ハローワークの求人を検索して自分の可能性を確認し、大変な毎日から現実逃避していたことがあります。
当時は状況から抜け出したいという思いから、様々な職業に興味を持っていました。
他の職業に興味を持つという事は、保育士として働くことが厳しいと感じている場合が少なからずあります。
辞める前兆に気付いたらどうすればいい?
自分自身が辞めたい気持ちに気付いたとき、また同僚や上司、保護者の立場で、保育士の辞める前兆を感じたときにどのように対応すれば良いのでしょうか。
良い保育士であればあるほど辞めてほしくないですし、本人が困っていたらフォローしたいと思いますよね。
本人、職場の関係者、保護者がそれぞれできる対応についてお伝えします。
保育士本人ができるセルフチェック
ストレスの多い職場で仕事を続けることは困難です。
まずはセルフチェックしてみましょう!
いくつ当てはまるでしょうか。
- □朝起きるのがつらく、出勤前に無気力になる
- □毎日不安でいっぱい
- □上司や同僚に相談しづらい、話を聞いてもらえない
- □行事準備や残業・持ち帰り仕事が多すぎる
- □自分の意見が通らず、やりたい保育ができない
- □「このままここにいていいのか」と漠然とした不安がある
- □家に帰っても何もやる気が起きない
- □給料と仕事内容が見合っていないと強く感じる
- □将来の自分の働き方がイメージできない
【0~2個】
比較的安定しています。
気になることがあったら早めに対処しましょう。
【3~5個】
転職を考え始めるサインです。
信頼できる人に相談し、ストレス解消のための手立てを講じましょう。
【6個以上】
心身が危険信号です。
職場との相性が悪い可能性が大きいですので、転職・休職を視野に入れ、早めに対策しましょう。
声かけ・環境改善
保育士が離職を考えるほど悩んでいる時に同僚や上司にできる事は、声掛けや環境の改善です。
子どもや保護者の事で悩んでいても、一緒に働く仲間が解ってくれれば乗り越えられることが多いです。
悩みを聞き、課題に対して一緒に考えてくれるだけで心強く感じます。
また、仕事量や休憩時間、職場の風土改革などの環境改善をすることも大切です。
本人の困り感に加えて他の保育士の意見も積極的に取り入れ、無理なく働ける職場作りをすると良いですね。
保護者にできることは?
保護者の思いを伝えることは必要ですが、過度な要求やきつい態度での苦情、理不尽な主張は保育士の神経をすり減らし、大きなストレスを与えます。
カスハラが問題視されていますが、保育士に対しても節度ある態度で接しましょう。
保育士は保護者からの好意的な態度を感じるだけでほっとすることもあります。
また、頑張っていることを認められたり感謝の言葉をもらったりすることはやりがいにつながり、離職を考え直すきっかけにもなり得ます。
保育士を辞めたい…前兆があった時の対処法
保育士を辞めたいと思った時、「どうすればいいのかわからない」「辞めたら周りに迷惑かな」等と考えて、悩んでしまうことがあります。
離職の前兆があった時、自分自身でどのように対処するのが良いでしょうか。
本章では、仕事を辞めたいと思った時におすすめの対処法をご紹介しますので、参考にしてみてくださいね。
今の職場でできることを探す
まずは職場でできることを探してみましょう。
- 同僚や上司に相談する
- 仕事の効率化を図る
- 保育環境を見直す
- 人に頼る
困り事を職場の人に相談することは、解決策を見つけ、人間関係を築くことにつながります。
また仕事をこなすには作業効率が重要ですので、配布物をまとめて折る、話し合いの内容を事前に伝えて考えをまとめておいてもらう等、無駄な時間を省き時間を捻出しましょう。
子どもたちが落ち着いて過ごせ、保育士の同線がスムーズになるように保育環境を見直すことで働きやすくなりますし、頼れる人がいれば互いにサポートし合って効率を上げられますね。
心身のケアを優先する
何よりも、心身のケアを優先させましょう。
辛くても責任感から無理して仕事をする人は少なくありませんが、心身は自分が気付かないうちに追い込まれていくものであり、精神的ストレスの症状が体に出ている時はかなり危険です。
「他の人も頑張っているから自分も」と頑張ってしまいがちですが、他人と自分の状況は違います。
精神的な疾患の治療は、風邪の治療のようにはいきません。
ストレスを甘く見ずに早めに休息を取りましょう。
第三者に相談する
同じ職場の人だけではなく、第三者に相談することで客観的な視点からみた意見が得られます。
深刻だと思っていた状況も単純な事だと気付けたり、考えていたことと全く違う解決策が見つかったりすることもあります。
悩んでいるときは視野が狭くなりがちですが、状況を引きで見るきっかけになって、もっと広い世界がある事に気付けるかもしれません。
仕事を辞めるかどうかという生活に大きく関わる選択ですので、様々な人の意見を聞けると良いですね。
保育士を辞めた後は?
保育士を辞める際に、転職先を考える必要があります。
やりたいことが決まっている場合は良いですが、特に決まっていない場合は「何をすればいいんだろう」「保育以外に自分にできる事ってあるのかな」等と、悩んだり自信を持てなかったりすることもありますよね。
離職後に何をすればいいのか、一緒に考えてみましょう。
保育士から別の職種へ転職
保育士を辞めた後に、違う職種へ転職するという選択肢もあります。
同じ福祉系の職種もありますし、全く違う種類の仕事に就くことも可能です。
違う職種に就くことで、意外な自分の適性に気付くこともあります。
どういった職種を選ぶかは全くの自由です。
せっかくなら新しい道を選択するチャンスだと思って、やってみたかったことにチャレンジしてみても良いですね。
それまで保育士として頑張った経験は、様々な場面で役に立ちます。


資格を活かした新たなキャリアに挑戦する
保育士資格は幅広い場面で活かせる国家資格ですので、活用して新たな事に挑戦するという道もあります。
以下にまとめたので参考にしてみてください。
- ベビーシッター
- 企業内保育
- 乳児院や児童養護施設
- 家庭的保育者
- ナニー
- 障がい児通所施設
- 学童保育
- 幼児教室の講師
- 転職エージェント
- 子ども服などの販売員
- 子育て支援センター
- 子育てなどに関する電話相談員
- 保育行政担当者
- YouTubeやInstagramの運営
- 在宅ライター
- 教材作り


まとめ
保育士を辞める前兆が見られるという事は、何かしらの辞めたい理由があります。
結果的に離職する・しないに関わらず、その時の気持ちを大切にする事は重要です。
忙しさから自己犠牲的な働き方が求められることもある保育士ですが、本人が納得できる選択をすることが、自身の健康を守る事や、豊かな生き方につながります。
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