一般教養や専門知識を問われる公立の試験を受け、高い倍率をくぐりぬけてようやく公立保育士になれたにも関わらず転職を考えている方は少なくありません。
それにはどんな理由があるのでしょうか。
一口に転職をするといってもそこには様々な迷いや悩みがあります。
ここでは転職の理由や転職先、転職のメリット・デメリット等をお伝えします。
この先どのような道を選ぼうかと考えるときの参考にしていただければと思います。
- 公立保育士が転職を考える理由は人間関係や異動による負担など様々である
- 処遇が手厚いなどの理由で転職を考え直すこともある
- 転職先は私立保育園やベビーシッター、保育業界以外の仕事など様々な選択肢がある
- 民間に転職するメリットもデメリットもあるので自分に合った職場を考えると良い
- 転職する際は、退職のタイミングや引継ぎなどに配慮することが必要である
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転職を考え始めてから実際に転職するまでには、することや考えることが色々あります。
公立保育士からの転職についての流れを順にご紹介しますので、自分の気持ちを客観的に把握して整理するためにもぜひ活用してくださいね。
公立保育士からの転職を考える5つの理由
誰もが働きやすい職場を希望していますが、実際はそんなところばかりとは限らず、保育士も例外ではありません。
公立保育士が転職を考えるには、公立保育士ならではの理由があります。
自ら望んで就いた仕事を辞めたいと思う理由は何なのか、本章では多くの方が感じている代表的な5つの不満や悩みをご紹介します。
人間関係への不満
常に連携を取りながら進めていく必要がある保育の現場では人間関係に特に気を遣います。
公立保育園は私立保育園と比べて離職率が低い傾向にあるためベテラン保育士が多く、関わりに難しさを感じることが少なくありません。
また自治体によっては正職員を減らして臨時やパートの職員の割合を増やしているところもあり、「正職員なんだから」と厳しい目を向けられることもあります。
立場の異なる職員同士の関係を良好に保つのが難しい職場であると言えます。
数年ごとの異動が負担
公立保育園は各自治体に複数あることが多く、その場合基本的に数年ごとに移動があります。
子どもや保護者との関係性ができていて職員との連携が取れるようになった職場を離れ、また初めからその関係づくりをする必要があるため、適応能力が求められる環境と言えます
また公立保育園は保育の方向性を同じくしているとはいえ、園ごとのやり方やカラーがあるため、その都度合わせていかなければならないストレスを感じることも少なくありません。
上司の異動が負担
園長や主任など、上司の異動によって職場の雰囲気や保育方針が変わる可能性があります。
常に厳しい目を向けられていると現場には緊張感が漂い、のびのびとした保育が難しくなります。
また保育に対する考え方や方針がそれぞれにあり、他の職員の意見をどの程度受け入れるかというのも上司によって違います。
自分のやり方と違っている場合はそれまでの保育の方法を変えざるを得ないこともあり、ストレスに感じてしまうことがあります。
働き方への悩み
公立保育士は公務員なので、副業は基本的には禁止です。
「副収入を得たい」「保育士以外にもやりたいことがある」という人にとっては悩みの種となります。
また、職場によっては時短勤務や有休が取りにくいことがあります。
公務員なので権利としては認められているものの、園長や自治体の担当者に渋られたり取得しにくい雰囲気があって言い出せなかったりすることが少なくありません。
家庭や私生活と仕事との両立に悩むケースが見受けられます。
公立保育園ということで保護者からの要望が多い
公立保育園は市町村などの地方自治体が運営主体となっています。
公的な施設ということでより質の良いサービスを求められたり、公務員という自覚を持つように求められたりすることがあります。
また保育園には苦情相談窓口を設置することが義務付けられていますし、保育園を通さずに直接役所に要望や苦情を伝えることも可能です。
意見を言いやすいことで中には理不尽な要望や厳しすぎると感じる苦情もあり、それがストレスになることがあります。
実際の公立保育士の離職率
保育士の離職率は全体で9.4%となっています。
公立・私立別に見ると、公立の離職率は6.3%で私立では10.8%となっており、公立の方が低いのが現状です。
また、保育所で勤務する保育士の経験年数を見てみると、2年未満が15.5%、2~4年未満が13.3%、4~6年未満が11.1%、6~8年未満が9.5%となり、合計すると経験年数8年未満の保育士が全体の49.4%とほぼ半数を占めています。
離職に伴って、経験年数が低い層の保育士が多くなっている状況が見て取れます。
公立保育士が転職を考え直す理由
転職を考えていたにも関わらず、思いとどまるケースも中にはあります。
仕事を辞めるかどうかは、キャリアアップや経済的な面が大きく左右される一大決心です。
後悔のない選択をしようと考え、どうするべきか迷ってしまう問題ですよね。
迷った末に一度は考えた転職を考え直すには、どのような理由があるのでしょう。
キャリアアップすることで高収入が期待できるから
保育士として長く勤めると主任や園長(施設長)にキャリアアップすることが可能で、役職がつくことにより給与もアップします。
キャリアアップできる点では公立も私立も同じですが、給与面では公立保育士の方が高い傾向があります。
園長(施設長)の給与月額を比べると、公立の方が約67,000円高くなっています。
公立保育士になったからには、今は辛くても頑張ってキャリアアップして高収入を得たいというのが、転職を思いとどまる理由の一つとなっています。
公務員のしっかりした福利厚生を失うことが不安
公務員であることのメリットの一つが充実した福利厚生です。
主なものに、職務や生活に関する手当の充実、民間よりも多い年間休暇や特別休暇の充実、医療保険・年金の手厚さがあります。
それ以外にも互助会による祝い金等の制度や旅行やレジャーなどで割引を受けられるといったものもあります。
仕事とプライベートを両立させて長く働き続けるために重要な要素である、充実した福利厚生を失うことへの不安が転職を考え直す理由になります。
転職を周囲に止められる
上記のように公立保育士は給与面や福利厚生面でメリットがある他に、勤務先が倒産する心配がないですし、余程のことが無い限り解雇されることもありません。
こういった理由から、周囲からは好待遇の職場を辞めるなんてもったいないと見られます。
辞めたいと思う理由は人それぞれですが、条件だけを見れば理解されにくいものです。
また家族がいる人は、安定した職を失うことで今後生計を立てていけるのか、家族が不安になるといった背景も見られます。
公立保育士からの転職先の選択肢
公立保育士を辞めると決めたら、再就職先を考える必要があります。
公立保育士の再就職にはどのような選択肢があるのでしょうか。
保育士として別の職場で働き続けるか、または保育士以外の道を選ぶのか等、何通りもの選択肢があります。
本章では働き方の選択肢や保育士の資格を生かせる職種などをご紹介します。
正職員以外の働き方も検討しよう
正職員として働くことは、正職員以外よりも仕事量が多く責任は重く、ストレスを感じやすいものです。
公立保育園にとどまることを考えるなら、正職員以外で働くという方法があります。
同じ公立保育園で働くので、それまでの経験をそのまま生かして働くことが出来ます。
正職員以外の働き方は自治体によって違い、期限付きの契約職員やパート社員、正職員に準じた立場の職員等様々な形があります。
各自治体で自分に合った働き方を考えると良いですね。
公立以外の保育園や認定こども園
公立で働くつもりはないけど今までのように保育園で保育をしたいと考えている場合は、私立の保育園やこども園に就職することが考えられます。
異動が無いので、園にいる子どもたちの成長をずっと見守ることが出来ます。
また異動のたびに新しい環境に慣れ、人間関係を構築する必要がありません。
そして、公立と比べて独自の園のカラーが色濃く出やすいことも私立の特徴です。
良いと思える園があれば、そこで自分がしたい保育を展開することが出来ますね。
託児所やベビーシッターなどの保育園以外で資格を活かせる職種
- 託児所
- ベビーシッター
- 企業内の保育園
- 病児保育
- 学童保育
- 放課後デイサービス
- 児童養護施設・乳児院
- インターナショナルプリスクール など
託児所や企業内の保育園などは、子どもを預かって保育するという点では認可保育園と同じであり、経験を活かすことが出来ます。
またベビーシッターや学童保育は保育士の資格が無くてもなれますが、資格があると信頼度が増します。
放課後デイサービスは近年数を増やしている施設であり、設置基準に保育士が含まれているため保育士の需要が高まっています。
その他、児童養護施設やインターナショナルプリスクールなども保育士資格を活かして働ける職場です。
保育業界以外への転職
保育業界以外の転職先は無数にあります。
保育とは関係のない仕事に就くこともできますが、それまでの経験を活かして働くこともできます。
保育用品を販売するメーカーでは保育現場経験者の意見は重要ですし、子ども・子育て用品の開発や販売をしている企業でも保育士の経験は求められるでしょう。
幼児教室の講師や写真館スタッフなどは、経験を活かして子どもと関わることが出来る上に、企業や顧客から信頼を得やすいという意味でも資格や経験が活きてきます。
公立保育士から民間に転職するメリット・デメリット
公立保育園で仕事を続けていくことが難しいと感じた時に、私立保育園への転職を考えることもあるでしょう。
公立の保育園から私立の保育園に転職した場合、どんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
同じ保育園で勤務する保育士として、どのような違いがあるのでしょうか。
それぞれの園の特徴を踏まえてご紹介します。
公立保育士から転職するメリット
- 施設の方針や働き方を選べる
- 副業ができる場合がある
- 異動のストレスがなくなる
- 比較的若い世代の保育士が多い
私立保育園の特徴は様々で、自然の中で多くの時間を過ごす園もあれば設定保育中心の園、シュタイナー教育、モンテッソーリ教育、宗教主体のものなど、それぞれ特徴があり、基本的に変わることはありません。
そのため、自分が取り組みたい保育の方針を選んで就職することが可能ですし、相談すれば個人に合わせた働き方に柔軟に対応することも可能です。
大規模に展開している園でない限り異動はありませんし、副業を認めている園もあります。
また私立は若い世代の保育士が多いので、同世代の保育士にとっては働きやすい職場環境とも言えます。
公立保育士から転職するデメリット
- 公務員の安定性や待遇を失う
- 出戻りしづらい
- 積み上げたキャリアがなくなる
公立保育士には公務員としての安定性があることや、手厚い福利厚生や手当、保証されている休暇の多さなどの待遇が大きな魅力ですので、それを失うことはデメリットとなります。
また、もう一度公立保育園で働きたいと思っても、一度辞めてしまうと過去の退職歴は自治体に把握されているのでかなり難しいと言えるでしょう。
公立保育園で積み上げた経験は、その自治体内では評価の対象となりますが、辞めてしまえばその評価はなくなります。
転職するとなると自身の実績は面接でアピールしたのち、就職後に新たにキャリアを積み上げていくことになります。
公立保育士から転職する際の注意点
公立保育士から転職すると決めた場合、具体的にどのようにすればよいのか迷うこともあるでしょう。
働きながら転職活動をする必要がありますし、なるべく周りに迷惑をかけず、出来れば悪い後味を残すことなく気持ちよく退職したいですよね。
本章では転職活動をどのように進めていくと良いか、注意点をご紹介します。
転職活動のタイミング
転職するタイミングは人によってそれぞれではありますが、保育士の転職のタイミングで望ましいのは新年度が始まる4月です。
4月に新たに働き始めることを踏まえると、7~9月頃に転職活動の準備を始めると良いでしょう。
保育士の求人は10月以降に徐々に増えてくる傾向にあります。
それに向けて、あらかじめ履歴書の作成や希望の条件を明確にすること、また転職サイトに登録するなどの準備をしておくと10月以降にスムーズに転職活動を進めることが出来ます。
転職活動の進め方
- 転職活動に向けて準備する
- 転職先を選び、応募する
- 応募書類を用意する
- 応募先の面接を受ける(園によっては試験も)
- 応募先から合否の連絡を受ける
上記が、主な転職活動の進め方となります。
先ず準備の段階では転職に向ける自分の考えを整理したうえでスケジュールを決め、情報収集をしましょう。
転職先を選ぶ際は、ハローワーク、一般の求人サイトに加え、保育士専門の転職・求人サイトを活用することも有効です。
書類を用意する際に履歴書の志望動機を書くときには、まずは園のカラーや方針を理解したうえで、前向きな考えを自分の言葉で記入すると良いでしょう。
退職時の注意点
- 退職の時期に配慮する
- 半年~3か月前には退職の意思を伝える
- 相手の時間に余裕があるときに伝える
- 退職理由の伝え方に気を付ける
- 子どもや保護者の情報の引継ぎを行う
心身の状態など差し迫った理由がある場合を除き、退職の時期は年度が変わる3月末が望ましいです。
また次年度の担任編成や保育士の募集のことを考えると、半年~3か月前に退職の意思を伝えるのが良いでしょう。
退職理由を告げる際は、なるべくポジティブに伝えるようにすると円満退職に繋がりやすいです。
その際は相手に余裕のある時間帯を選ぶと良いですね。
子どもや保護者の情報の引継ぎは大切ですので、重要な情報は必ず伝えた上で退職しましょう。
まとめ
公立保育士は、保育士として働く職場としては給与面を含む待遇には恵まれていると言えますし、子どもや保護者、職場のことを考えると退職すべきかどうか悩むこともあるかもしれません。
ですが自分の人生においてどんな道を選ぶのかは本人の自由ですので、自分が納得できる道を選びましょう。
その上で、なるべく周りに迷惑をかけない姿勢を示すことで円満退職につながります。
ベストを尽くして、新しいスタートを晴れやかに始めたいですね。
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