1歳児は、離乳食から幼児食への移行期にあり「食べること」を通して心も体も大きく成長していく大切な時期です。
まだ噛む・飲み込むといった機能が未熟である一方、自分で食べたいという意欲も芽生えてきます。
食育は、食べ物への関心を育み、保育者や友だちとの関わりを通じて社会性を培う大切な活動です。
本記事では、1歳児クラスにおける食育の基本や月齢ごとのねらい、活動例、そして現場で気をつけたいポイントをまとめます。
- 1歳児クラスでの食育活動は、子どもそれぞれの発達状況によって臨機応変に対応する
- マナーを守ることよりも「楽しく食事をすること」が大切
- けして無理に食べさせようとしないこと
- 身近な日常的な活動も捉え方によって食育活動になり得る

できることが限られていて、個々の発達状況が大きく異なる1歳児はどんな食育活動ができるか頭を悩まされる人も多いですよね。
どんな活動なら可能か、一緒に考えていきましょう!


ちあき
認可保育園で勤務後退職して留学。その後は英語の幼稚園で働く。結婚を機に派遣保育士に転身し、さまざまな園で経験を積む。保育士歴は通算7年ほど。
子どもが重度アレルギー児になったことでライターに転身した2児の母。


1歳児の食育とは?
1歳児の食育とは、ただ食べる力を養うだけでなく、食べる楽しさを感じ、食具を使うことを学ぶことなどの食にまつわる営みを大切にするための取り組みです。
食べ物に触れる、保育者と一緒に食べる、友だちの様子を真似する、マナーを知っていくなどの日常の小さな経験が、食への関心を育みます。
保育園での食育活動は、子どもの発達や興味、季節に合わせて段階的に進めることがポイントです。
また、経験のない食材では、アレルギーの注意も忘れずに行いましょう!
1歳児の食育の基本的な考え方
1歳児は「自分で食べたい」気持ちが芽生える時期ですが、まだ咀嚼や嚥下は成長途中で未熟です。
そのため、食べる機能を育むことにプラスして、これから生きていく上で食への意欲を高めていけるよう、サポートしていきましょう。
- 手づかみ食べを尊重する
- 無理強いしない
- 噛みやすい大きさ・硬さに調理する
- 達成感を味わえる体験を用意する
こうした工夫によって、食べる力を段階的に積み上げていけます。
食育を取り入れるメリット
1歳児のうちから食育を取り入れることで、食べる楽しさだけでなく生活習慣や社会性の基盤が育ちます。
具体的なメリットは下記の通りです。
- 食べることへの好奇心が高まる
- 友だちや大人と食卓を囲む楽しさを感じられる
- 好き嫌いを和らげるきっかけになる
- 健康的な食習慣につながる
保育園では、食材に触れたり簡単なクッキングを取り入れたりすることで、子どもたちは「食べること=楽しい」と実感できます。
【月齢別】1歳児の食育のねらい
1歳児といっても、1歳になったばかりの子どもと春生まれで年明けにはもう3歳直前の子どもとでは発達の差が大きく、食育のねらいも変わってきます。
本章では、大まかな月齢ごとに「ねらい」「保育者の動き」「用意するもの」を整理しました。
ぜひ参考にしてくださいね。
12ヶ月~1歳3ヶ月
- 嚥下機能を育てる
- 自分の力で食べようとする
- スプーンやフォークなどの食具に興味を示して持とうとする
- 食事のマナーを伝えていく
- コップ飲みのやり方を伝えていく
- 「もぐもぐ」「かみかみ」など真似をして、咀嚼を促す
食べやすい高さのテーブルと椅子を用意したり、食べ物が床に落ちても片付けが短時間で行えるようにシートなどを引いたりして、準備をしっかり行いましょう。
食事をして口の周りや手を食べ物で汚してしまっても大丈夫なように、口拭きや着替えなどを用意しておくとスムーズです。
1歳3ヶ月~1歳6ヶ月
- 食べることは楽しいという気持ちを味わう
- スプーンやフォークなどの食具を使って食べようとする
- コップ飲みができる
- 食事の挨拶を真似する
- 口の中に押し込み過ぎないように声をかける
- 手づかみ食べを十分にさせるとともに、食べやすいものは、スプーンやフォークを使うようにサポートする
上記の他にも、食事の前に手を洗って清潔にすることを伝えたり、食後の食べこぼしや食事で手を汚してしまったものを拭くことを通して「清潔にすることは気持ち良い」と思えるような声かけをするのも大切なポイントです。
1歳6ヶ月~2歳
- 食事の挨拶を真似する
- 友達と楽しく食べる
- スプーンやフォークなどの食具を持って食べようとする
- 自分でやりたい気持ちを尊重しつつ、食べにくい料理などを口に運ぶサポートする
- 1口の適切な量を伝えていく
- 声かけをとおして楽しい食事の雰囲気を作る
「自分でやりたい」気持ちが育つ時期は、食事の際に使用したエプロンを保育者と一緒にきれいにしたり、片付ける活動を取り入れてもいいかもしれませんね。
子供の自分でやりたい気持ちを大事にできるように、手口ふきやエプロンなどは子どもが使いやすいものを用意しておきましょう。
2歳~2歳6ヶ月
- 食事の挨拶を真似する
- 食事のルールを少しずつ理解していく
- 友達や保育者と一緒に食べることを楽しむ
- 食事の前の手洗いや、食後の手口を拭いて清潔にすることなどを少しずつ自分でできるようにサポートしていく
- 食事の前後の挨拶を一緒に行う
- 楽しい食事になるように声をかけていく
子ども自身が自分で扱えるような種類の食器を用意すると、自分で食べようとする気持ちが育ちやすい傾向があります。
手口ふきや着替えなども、子どもが扱いやすいものを保護者に用意してもらうよう声をかけていくとよいでしょう。
2歳6ヶ月~3歳
- 食事の挨拶をする
- 1人で食べようとする
- 一緒に食べることを楽しむ
- 食事のマナーを守れるように声をかけていく
- 食器や食具の扱い方を伝え、少しずつ食べこぼしが減っていくようサポートする
- 偏りがないように、さまざまな食材に触れられるように声をかけていく
言葉でのコミュニケーションが取れるようになる時期なので、食事中の会話をとおして楽しい雰囲気を伝えていきましょう。
また、自分で何でもやりたい時期でもあるので、気持ちを尊重しながらできない部分をサポートすることも必要です。
1歳児クラスで取り入れやすい食育活動のヒント
食育活動というと、特別なことを行わないといけない気がしてしまいますが、日常の保育の中で無理なく取り入れられる活動はたくさんありますよ。
例えば、野菜に触れたり、簡単なクッキングをしたりするだけで、子どもたちの「食べたい」気持ちは大きく育ちます。
本章では食育活動のヒントになるようなアクティビティをピックアップしましたので、ぜひ参考にしてください。
野菜や果物に触れる
- とうもろこしの皮をむく
- きゅうりを手に持って感触を楽しむ
- カットする前の季節の果物を見て名前や大きさを知る
今は買い物もネットスーパーや宅配で済ませている家庭もあるので、子どもが実際に野菜や果物を見る機会が少ないケースもあります。
そのため給食の料理になる前の野菜や果物に実際に触れるだけでも、立派な食育活動のひとつです。
「見て・触って・匂いを嗅ぐ」という五感を使った体験が、食への関心につながります。
クッキング体験をする
- 素麺を折る
- ゆでたじゃがいもを袋の中でつぶす
- 食パンにジャムを塗る
1歳児クラスの子ども達にはクッキングは難しすぎると思いがちですが、実は工夫をすれば出来るクッキングはあります。
1つの料理を完成させるのではなく、レシピの1工程だけを体験するようなイメージを持つとできるクッキングの幅が広がりますよ。
安全面に配慮しながら、子どもが「できた」と思える工程を取り入れ、達成感を感じられるようにしましょう。
絵本や歌・ゲームと結びつける
- 食べ物が出てくる絵本の読み聞かせ
- 食べ物が出てくる歌あそび
- 食べ物カードを使ったマッチングゲーム
絵本や歌を通して食べ物に親しむことも効果的です。
遊びと結びつけることで、自然と食への意欲が高まります。
食べ物が登場する絵本や歌は、食事の前に歌ってみたり読んで、給食にその食材が出てきたら積極的に子どもたちに声をかけることも食育活動の一部になりますよ。
季節行事と関連づける
- 7月:夏野菜スタンプ
- 9月:お月見団子を飾る
- 10月:ハロウィンのかぼちゃを触る
行事に合わせた食育は、季節を感じるきっかけにもなります。
季節の文化と食を結びつけることで、子どもたちの興味はさらに広がるでしょう。
季節に関連づいた食育は毎年繰り返し行うことができるのもメリットの1つです。
保育園で1歳児に食育を行うときの注意点
保育園で行う食育活動は、子どもたちにとって「食べることは楽しい」という気持ちを育てる大切な時間です。
しかしその一方で、1歳児はまだ発達の途上にあり、誤飲やアレルギーといったリスクに細心の注意を払う必要があります。
本章では、それぞれのポイントを具体的に解説していきます。
安全管理をしっかり行う
1歳児はまだ噛む力や嚥下の発達が未熟であるため、食べ物による誤飲や窒息のリスクが非常に高い時期です。
そのため、食育活動を行う際には安全管理が第一の優先事項となります。
例えば、にんじんやきゅうりのような硬い食材は、大きめのスティック状にして持ちやすくしつつ、十分にやわらかく茹でることが大切です。
ぶどうやミニトマトなど誤飲の危険がある食材は、そのまま提供せず、必ず小さく切ってから使いましょう。
また、アレルギー対応も欠かせません。
園児ごとにアレルギー情報を把握し、代替食材を事前に準備しておくことが必要です。
無理に食べさせない
食育活動において忘れてはいけないのは、食べることを強制しないという姿勢です。
1歳児の中には、見慣れない食材に対して警戒心を持ち、なかなか口に入れられない子も少なくありません。
しかし、それは決して「できない」ことではなく、成長過程で自然に表れる姿です。
食育は「食べることそのもの」だけをゴールにするのではなく、食べ物を見る・触る・匂いを嗅ぐといった体験を積み重ねることが重要ですよ。
子どもの発達に応じて臨機応変に対応する
1歳児クラスでは、月齢によって発達に大きな差があるのが特徴です。
例えば、1歳になったばかりの子どもはまだやわらかい食材を手づかみで食べるのが中心ですが、2歳に近づくとスプーンやフォークを使って少しずつ自分で食べようとする姿が見られます。
同じ「1歳児」として括られていても、できること・興味の持ち方はまったく異なるため、活動内容によっては一律にするのではなく、個々の発達に応じて調整することが求められます。
【先輩保育士直伝】1歳児クラスでのおすすめ食育活動
1歳児クラスでは「食べることは楽しい」という気持ちを育むことが大切です。
特別な準備や複雑な工程のクッキングをしなくても、野菜や果物に触れたり、簡単な調理に挑戦したりと、日常の中でできる食育活動はたくさんあります。
本章では、現場で取り入れて子どもたちの関心が高かったおすすめの活動例を紹介します。
麺類を折る活動
クラスの子どもたちを少人数のグループに分かれ、そうめんやパスタなどの乾麺を折る食育活動は盛り上がるのでおすすめです。
袋に入った麵類を「ポキッ」と折る感触が子どもたちにとって楽しく、簡単に参加できる取り組みでした。
初めての活動が苦手な子どもも、最終的に参加できたので、初めてのクッキングにぴったりです。
折った麵類を実際に給食室へ運び、給食の一品として調理してもらい、給食として提供された瞬間の子どもたちの表情はとても印象的でした。
「自分で作ったね」と声をかけ合いながら、普段の食事とは違う特別な喜びを味わえた活動は、子どもたちの食への関心を深める大きなきっかけとなりました。
新米の炊く前のお米を触る体験
新米の季節には、炊く前のお米を子どもたちに実際に触れさせる活動を取り入れたことがあります。
普段お茶碗によそわれているご飯が、どのような過程を経て食卓に並ぶのかを、絵本やペープサートを使ってわかりやすく説明しました。
1歳児クラスなので理解することをゴールにおくのではなく、炊く前のお米と配膳されるふっくらとしたおいしいご飯の感触の違いを知ることをねらいとしました。
ご飯への関心やありがたみを感じるきっかけになるので、おすすめの食育活動です。
果物の皮を子どもの前で剥く
果物を子どもたちの目の前で剥くという活動も、1歳児にとっては良い食育体験になりました。
果物は外側と中身の色が異なるものも多く、例えばりんごは赤い皮を剥くと中は黄色がかったベージュ色をしており、その違いに子どもたちは驚きや発見を感じていました。
おやつの前に少し時間を取り、保育者が安全に配慮しながら目の前でりんごを剥くだけで手軽に行える活動で、子どもたちにとっては大きな学びとなります。
「見た目と中身は違う」という気づきを得られる体験は、食べ物への関心を高め、日常の食事をより豊かにしてくれる活動になったと感じます。
1歳児の食育の指導案の書き方
食育の指導案を書く際には、「活動のねらい」「活動内容」「環境構成」「予想される子どもの姿」を明確に記すことが大切です。
例えば「とうもろこしの皮むきを体験する」という活動を行う場合、ただ活動を行うのではなく、予め指導案として活動のねらいや環境構成を考えておくと、子どもたちの姿のイメージもつきやすくなり、それに応じた準備が可能になります。
指導案の展開例
指導案の書き方
活動内容
- 夏野菜のスタンプ
- 掘ったサツマイモの観察
- 袋の中でそうめんやパスタを折る
1歳児クラスの食育は、シンプルな活動を選ぶとよいでしょう。
時間も長くかけずに、集中力が持続する短時間で切り上げられると安全面の不安も少なくなります。
初めて見る食材に対して、怖くなる子どももいるので、子どもたちそれぞれのペースに合わせて活動を行いましょう。
環境構成
- 汚れても大丈夫なクロスや新聞紙をテーブルに敷く
- 食材を子どもの手が届く高さに置き、自由に触れられるようにする
- 道具は子どもサイズを用意し、大人がそばで見守る
- 食材や道具はグループごとに用意し、待ち時間が長くならないよう工夫する
子どもが安心して活動できるよう、環境を整えることはとても重要です。
1歳児はまだ注意力が散漫なため、安全とわかりやすさを意識した環境づくりを心がけましょう。
予想される子どものすがた
- 食材に興味を示し、匂いを嗅いだり触ったりする姿が見られる
- 最初は警戒していた子が、保育者の声掛けや友だちの姿に刺激を受けて参加する
- 「できた!」という達成感を味わい、笑顔で活動を終える
- 食材を通じて「食べること=楽しい」という気持ちが芽生える
食育活動に取り組むと、子どもたちはさまざまな姿を見せてくれます。
最初は食材に触れることを嫌がる子もいますが、友だちが楽しそうに取り組む姿を見て、徐々に挑戦するようになるケースも多いです。
子どもの反応を事前に予想しておくことで、臨機応変な対応がしやすくなり、活動をより豊かに進めることができます。
まとめ
1歳児の食育は、子どもの発達や生活習慣、社会性を支える大切な取り組みです。
安全に配慮しつつ、無理のない範囲で「見て・触れて・匂いを嗅いで」楽しめる活動を提供することが、子どもたちの「食べたい」という気持ちにつながります。
また、月齢ごとの発達差を踏まえて臨機応変に対応することで、一人ひとりの子どもが安心して成長のステップを踏めるようになり、将来の健やかな食習慣へとつながるのです。